192.加速弾
次の日、ハグレモノの村で同じ弾丸がもう一つとれた。
一回取ると光の玉は小さくなって、次の日になるとまた同じ大きさに戻ることから、一日で一発とれる感じの物だと判断した。
もちろん違うかもしれないが、それはおいおい確認していくことにする。
俺は二発の新弾丸を手にして、誰もいない郊外の荒れ地にやってきた。
弾丸のテスト、どういう物なのか分からない以上、誰もいない所でやった方がいい。
そういう意味じゃニホニウムのダンジョンでもよかったけど、あそこはあそこで重要なのが控えている。
残った能力をSSまであげるのと、鏡・勾玉に次ぐ剣を捜し出してダンジョンの精霊に会うのと。
それが控えてるから、無茶な事はそこでやれない。
ちなみにレイアもおいてきた。危険があるかも知れないから、まずは俺一人だ。
俺はもやしを一本置いて、距離を取った。
しばらくしてもやしはハグレモノ、スライムに孵った。
新しい弾丸を込めて、しっかり狙ってトリガーを引く。
スライム程度ならもはや外しようがないけど、ちゃんと狙ってうった。
放った弾丸はスライムのまん中をうちぬいた――と思いきやすぅと消えてなくなった。
「回復弾みたいなものか――ガハッ!」
瞬間、みぞおちに何か強い衝撃を感じた。
何かで思いっきり殴られた衝撃。
瞬時に原因が分かった、衝撃の直前にスライムがフッ、と消えたからだ。
スライムの体当たり、それが体のまん中にジャストミートした。
地面を蹴って後ろに下がる――と今度は後頭部をガツンと殴られた。
目の前が一瞬真っ白になる、頭がガンガンして目がチカチカする。
歯を食いしばって踏みとどまる。
立て続けの攻撃、そして目や耳が捕らえたほんのわずかな兆候から理解する。
スライムは、超高速で――今の俺でさえ捕らえきれないほどの高速で攻撃をしてきている。
理由は明白、あの弾丸だ。
加速弾……って所か。
弾丸はもう一発残ってる、もし本当に加速弾なら自分に撃てば対抗できる――が。
更にテストもしたいし、加速弾だってはっきりとしたわけじゃないし。
まずはこのままで対処だ。
その間に横っ面を思いっきり殴られた様な衝撃を受けた、口の中を切って鉄の味が広がった。
すぅ……と目を閉じる、深呼吸して自分を落ち着かせる。
神経を……研ぎ澄ませる。
右脇腹に何かが触れた――脊髄よりも早い反射で肘を落とした。
全神経を研ぎ澄ませての一撃はしっかり相手を捕らえ、スライムは肘打ちで吹っ飛ばされ、ばらばらに消し飛んだ。
「ふう……」
おそらく一番スライムに苦戦した瞬間。
この世界に転移してきた何もなかった直後も含めて、スライムに一番苦戦した瞬間だった。
☆
ニホニウムダンジョン、地下一階。
ある程度の情報を得た俺はここに場所を移した。
残ったもう一発の加速弾(仮)を銃に込めて、回復弾と同じように、注射する様に自分に撃った。
世界が変わった。
ものすごく静かになった。
例えるのは難しいが、「静か」というのは「静寂」という音がする物だと俺は思ってる。というか今までそういうのを経験してきた。
この静かはまったく違う。
無音。
あらゆる物が止まった、空気さえも止まった無音の状態だ。
これが一発目だったら俺は「時間停止」を連想しただろう、だが先にスライムで試して、その荒ぶるっぷりを見ていた俺は「超加速」と思った。
銃を構え、装てんした通常弾を撃つ。
弾丸は……ノロノロと銃口から飛び出した。
通常状態のクズ弾の様な状況、ノロノロコマ送りのように進んで行く。
時間は止まってない、ものすごく遅くなっただけだ。
全種類の弾丸を連続で撃って、通常弾に横一列で並んだ。
面白い事に気づいた。
横一列で並ぶ様にうちだした弾丸は進む距離――つまり速さに違いがあった。
一番遅いのはもちろんクズ弾、元が遅いのに俺が加速した状況下だと、もはや空中に固定している様な感じだ。
一番速いのは意外なところで、回復弾だった。
一斉にスタートを切った状況から回復弾は早くも頭一つ抜けていった。
かと思えば更に状況が変わった。
それまで遅かった追尾弾が軌道を変えて、少し離れた所に見えるスケルトンに向かって飛んでいく。ターゲットを見つけ、加速した追尾弾は全弾丸の中で一番速かった。
加速状態はまだ続いた。
俺はスケルトンに向かって行った。
ほとんど静止してる状態のスケルトン。
二十メートルくらいの距離を俺がゆっくり歩いて近づくまでの間、向こうは閉じた口が指一本はいる程度のスキマを開けた、くらいしか動けなかった。
スケルトンを思いっきり殴った、頭蓋骨がばらばらになって粉砕した。
普通ならこれで倒れてドロップする――けどそうはならない。
頭が吹っ飛んでもスケルトンは倒れてない、ドロップしない。
「……そうか、俺が速すぎてドロップするまで逆に時間がかかるんだ」
更にスケルトンを殴る、倒れないしドロップしないから殴りまくった。
腕、体、足。
全身をくまなく砕くが、スケルトンの体は空中で粉々になって、骨片が超スローモーションでゆっくりと地面に落ちていく。
やがて弾の効果が切れて、速度が元に戻る。
スケルトンはばらばらに吹っ飛んで、ドロップを――。
「うおっ!」
すっ飛んできた弾丸を避けた。
最初の頃に撃ったきり存在を忘れていた弾丸が今になって届いた。とっさに避けて事なきを得た。
大体の効果は分かった、やっぱりこれは加速弾と呼ぶべき弾丸だ。
弾丸の効果と、今試した光景を反芻する。
評価を下す。
「強敵には最強に近いくらい強いけど、周回用にはまったく使えないな」
強いがピーキーな性能の銃弾。
上手く使えば面白くなる、と思ったのだった。