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170.フードバトル

 グランドイーターを倒した後、俺はへたり込むようにしてその場に座り込んだ。

 どうにかして倒せた……もしかしたら今までで一番の強敵なのかも知れない。

 それくらい追い詰められてた。


「……」


 ……いや。

 倒せては……ないよな。


 まわりを見回す。

 ニホニウムダンジョン地下一階、出口付近。


 目の前は出口があって、外の景色が見える。

 振り向けば慣れ親しんだダンジョンがあって、親の顔よりも見たスケルトンがうようよいる。


 でも、何もない。

 ドロップが、ない。


 俺だけのユニークスキル、ドロップS。

 あらゆる物がダンジョンからドロップされるこの世界で、ドロップSはどんなモンスターにもドロップをさせる最強のスキル。


 この世界の人間じゃドロップしないニホニウムのモンスターも、ハグレモノも。

 倒しさえすればドロップするんだ。


 それがしなかった。

 倒せてないからだ。


 厳密にはやり過ごしただけ。

 この世界の動かない(ことわり)をうまく使って、相手をダンジョンの外に誘導して消滅させた。

 倒せたわけじゃない。


 だからドロップはしなかった。


 初めてドロップしなかった。

 何を倒してもドロップした俺が、初めてドロップしなかった。


「…………」


 ちょっと……いや、かなり。

 かなり悔しいな。


 気づかなければいいのに、気づいてしまったらそれはのどの奥に刺さった魚の骨みたいになった。

 どうしても気になって、取り除かなければならない。

 そんな気持ちわるさ。


 どうするかな……って思ったその時。

 例の女、人形サイズで留め袖を着た半透明の女がまた現われた。


 俺のなかではもうニホニウムと認定している彼女は俺にぺこりと一礼した。

 服装のイメージそのままな、上品な仕草での一礼だ。


 ありがとう、無言だがそう言われた様な気がした。


「気にするな、俺もここになくなられると困る」

「……」


 ニホニウムはきびすをかえし、歩き出した。

 マナー教室でのお手本になるくらい、優雅に歩き出した。


 少し歩いて、立ち止まって、振り向いて俺を見る。


「……ついてこい、って事か?」


 聞くと、ニホニウムは更に歩き出した。

 何のことか分からないが、俺は彼女の後についていった。


「お前ってやっぱりニホニウムなんだな」

「……?」


 彼女は俺を先導したまま、首だけ振り向いて、ちょこん、と傾げた。


「いや傾げるのおかしいだろ、こういうのを見たら誰でも分かる」


 俺は横を指した。

 ニホニウム地下二階、ゾンビがうごめく階層。


 普段ならゾンビが呻きながら襲ってくるんだが、それがまったく無い。

 彼女にゾンビたちが道を空け、膝に手をついて頭を下げていた。


「どこぞのヤクザだよ、というかまるっきり極妻じゃないか」

「……」


 ニホニウムはにこりと微笑んだだけで答えない。


 そのまま先導される。

 地下三階も四階も五階も、アンデッドモンスターたちはニホニウムに頭を下げて道をゆずった。


 そんなニホニウムは地下五階の奥まった所に足を止めた。

 その横にいしころがある。

 彼女はそれを見つめ、俺に振り向く。


「ああ、もう一つあったのか」


 頷かれる。

 やっぱりニホニウム……このダンジョンの精霊だな。


 見た目はただの石だが、グランドイーターの石はこのダンジョンにとって異物だ。

 アウルムが冒険者狩りを察知出来る様に、ニホニウムもこれを察知できるんだ。


 俺は石を見つめた。

 グランドイーターに孵る石――グランドイーターがドロップした石。


 俺が……ドロップさせられなかった石。


 見つめて、その前にどかっと座り込んだ。


 考える。

 のどの奥に刺さった魚の骨を取り除く。

 その方法を考えた。


 ……セレストに聞けばわかるだろう。

 陰謀に使えるくらい量産されてるんだから、グランドイーターの倒し方は確立されてるだろうが、俺は自分で考える事にした。


 石を見つめ、さっきの戦いを思い出す。

 完敗とも言える苦渋を舐めさせまくった戦いだけど、そこから何かをつかめないかを考えた。


 ある意味ワンパターンだ。

 グランドイーターはあらゆる物を消しゴムの様に消していった。


 消滅弾に似てるな、触ったところだけを消していくなんて。


「無敵だな……」


 物質だけじゃなくて魔法も消せるんだから、文句なしの無敵だろう。

 消せないものを使って倒すのか? それじゃお手上げになるけど……。


「……ん?」


 引っかかった。

 今一瞬ひっかかった。


 何に引っかかったんだ? 俺は。


 思考をさかのぼる、自分が思ったことをそのままトレースする。

 あらゆる物を消せる、消しゴムの様に消せる。


 グランドイーターはあらゆる物を触れるだけで消していく。


「消す?」


 待てよ、消す?

 グランドイーター、別名ダンジョンイーター。


 イーター、イレイサーじゃない、イーター。


 名は体を表すという。

 本来の名前も、別名も。

 そいつは両方、イーターだった。


 消してるんじゃない、喰ってるんだ。


「喰ってる、か……」


 俺は、目の前の石をじっと見つめた。


     ☆


 ニホニウムのダンジョンの外、入り口のすぐそば。

 そこに石を置いて、距離を取った。


 情けないが、保険だ。

 ダメだったとき、またクズ弾で誘導して消すという、保険なのだ。


 そうはならない様に、俺の推測が正しいことを祈りながら。

 俺は、孵るのを待った。


 しばらくして空気が変わった。

 ダンジョンマスターの空気があたりに漂う。


 石がグランドイーターに孵った。


 拳銃を構える。

 残った銃に二種類の弾だけを装てん。


 雷弾と、回復弾。

 ダンジョンを攻略して、無限になった二種類の弾丸。


 無限雷弾をうった、当てないで、グランドイーターのやや右側に撃った。

 グランドイーターは反応して、腕を振って雷弾を喰った(、、、)


 次に回復弾を撃つ、これも当てないでグランドイーターのやや左側に撃った。

 同じようにヤツは反応して、腕を振って回復弾を喰った。


 雷弾、回復弾、雷弾、回復弾。

 無限の弾丸を交互に撃っていく。


 クズ弾の時とある意味同じだ。

 左右に弾丸を振って、グランドイーターを振り回した。


 まるで反復飛びのグランドイーター、そいつは弾丸を喰っていく。


 俺は撃ち続ける。

 10発、20発、50……100……。


 無限であるのをいいことに、右に左にと撃ちまくった。


 弾丸を食い続けたグランドイーターの体があきらかに大きくなった。最初よりも一回り――いや二回り大きくなった。

 見間違えようがないくらい大きくなった。


 グランドイーター、イレイサーじゃなくて、イーター。


 喰ってるのなら、限界はある。

 イレイサーでも限界はあるのかも知れないが、イーターはより限界があるはずだ。

 そう思った俺は無限の弾丸を喰わせ続けて、こうして効果が出てきた。


 いける、そう思った俺はペースを上げた。

 もはや左右に振ることなく、無限雷弾と無限回復弾を連射して撃ち込んだ。


 グランドイーターの体が加速度的に大きくなっていく。


「……本当にいけるのか?」


 思わず不安になるほど、そいつの喰うペースは落ちなかった。

 弾丸をいくら撃ち込んでもそいつは腕の一振りで問題なく食い尽くすのだ。


「……」


 迷いを振り切って、連射を続ける。

 自分を信じて、最初の十倍くらいに膨らみ上がったグランドイーターに弾丸を撃ち続けた、結果。


 プシュッ……。


 空気抜けの音がした。

 膨らみ上がったグランドイーターの体の一部がはじけて、直後、急速にしぼんでいく。


 空気抜けしている間、グランドイーターは腕を振り続けて、俺を襲おうとするが、それ以上に抜けるペースが速く、やがてそいつは最初の時よりも小さくなって、消えていった。


 限界を超えた量の弾丸――ざっと4桁の弾丸を喰わされたグランドイーターは消えて。

 立っていたところに、輝く石をドロップした。


「……よしっ」


 銃を構えたまま、空いてる手で小さくガッツポーズした。

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― 新着の感想 ―
グランドイーターは階層に誰もいない状況でしか孵らないなら、どこで待ってた?
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