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165.負けず嫌い

 朝、転送部屋の前。

 すっかり元気になったアウルムをダンジョンまで送って戻ってきた俺は、セレストとそこで立ち話をしていた。


「テルルダンジョン15階、夫婦スライム。通称『強者殺し』」


 昨日は急ぎだったから初見で突っ込んでいったけど、これからの事を考えるとやっぱり情報は欲しいと、セレストを捕まえて話を聞いた。

 ファミリーの知恵袋はあっさりと、平然な表情のまま教えてくれた。


「銀色のスライムが夫で、金色のスライムが妻らしいわ」

「へえ? こう言うのって金銀なら金が夫だと思ってた」


 先入観で偏見かもしれないな。


「強者殺しと呼ばれる理由は、通常のダンジョンじゃない別空間へ常に一人でいるように飛ばされて、その上銀色の方は入った人の魔法系能力、金色の方は物理系能力とまったく一緒になるところ」

「それは身にしみてわかった。強いわ速いわ硬いわでほとんどダンジョンマスター級だった」

「私だったら金色の方は一階の普通のスライムよりも弱くなるのだけれど」

「能力の完全コピー……まさしく強者殺しだな。バランスよく両方高いときついな」

「それから」

「まだあるのか」

「ええ」


 頷くセレスト。


「金色のスライムは魔法無効、銀色のスライムの方は物理無効の特性を持ってるわ」

「え……ってことは……」

「そう。同じ能力で渡り合う、という形を強制される。それも強者殺しのゆえんだわ。弱い人ならおままごとで済むのだけど……」


 なるほど。

 ふとマーガレットの事を思い出した。

 ドロップが全てAである一方で、HPから運まで、他の能力が全て最低のFだ。

 マーガレットなら、金銀両方とも全部F相当で、FとFのしょっぱい塩試合な事になる。

 同じ能力でも、F同士の戦いとA(俺はSSだが)同士の戦いだと、後者の方がより危険度が高い。


 強者殺し……結構エグいな。


「更にもう一つ」

「まだあるのか?」

「ええ、こっちは『夫婦スライム』と呼ばれる理由。どっちか片方を倒してしまうと、生き残った方が怒り状態になって、全能力が一ランクあがるわ」

「伴侶の敵討ちか」

「そういうこと。攻略法は二つ。Aのステータスがない人は強い方から倒して弱い方を後回し。Aがある人は怒り状態になってもA以上には上がらないから、弱い方から倒して能力上昇に天井を持たせるの二つね」

「なるほど、だから昨日の俺は特に強くなったって感じなかったのか」


 昨日は銀色のを先に倒した、生き残った金色のゴールドスライムは本来なら強くなるはずだが、俺の能力と同じって事は全部がSS。

 元々が存在しない天井より上だから、それ以上は上がらなかったから強くなったと感じないって事だな。


「やっかいな階層だな」

「一応得意なタイプもいるわ」


 どんなんだ? って聞こうとしたら、転送部屋にアリスが戻ってきた。

 彼女は四体の仲間モンスターを肩に乗せて、魔法カートを押している。


「あれ? 二人ともここにいたんだ。ダンジョンには行かなかったの?」

「セレストにテルル15階の話を聞いてたんだ」

「なるる。ちょうどよかった、あたしそこに行ってたんだ」

「へえ?」


 アリスは廊下に出て、押してる魔法カートを俺に見せた。


「ほら、桃をいっぱいとってきたよ。アウルムちゃんから桃すっごい美味しかったって聞いたからエミリーに作ってもらうんだ」


 魔法カートの中は二十個くらいの桃が入っている。

 稼ぎにしては少ない、申告したようにファミリーのデザート用に取ってきたんだろう。


 にしても……朝一番からこんなに?


「リョータさん、彼女みたいなのが向いてるタイプ。自分は弱くて、自分よりもはっきり強い仲間モンスターをつれて入れるから」

「……なるほど!」


 セレストの説明にまたまた納得した俺だ。


「ふふん、あたしも15階の話を聞いてもしやって思ったんだ。本当はリョータの桃でつくってもらいたいとこだけどさ、ま、エミリーの腕ならこれでも美味しく出来るっしょ」


 アリスはそう言って、魔法カートを押してキッチンに向かった。

 エミリーがいるいないにかかわらず桃を置いてくるつもりだ。


 俺には不向き……か。


     ☆


 テルルダンジョン、地下15階。

 闘技場の様なダンジョンに俺は転送部屋伝いでやってきた。

 しばらく待ってると、金と銀のスライムが現われた。


 昨日と同じイチャイチャしてる、そしてよく見ればゴールドスライムがシルバースライムの方に甘えている。

 銀色の方がオス、という説は何となく納得出来る光景だ。


「うおおおおお!」


 俺はスライムに向かって突進した。

 俺に気づいたスライム二匹はパッと離れ、同時に攻撃をしかけてきた。


 電光石火。


 銀色の攻撃をガードしつつ掴んで、思いっきり明後日の方に投げ飛ばす。

 残ったゴールドスライムが攻撃してきた、カウンターの要領でそれを皮一枚で避けて、体をわしづかみにして、そのまま突進を続ける。

 闘技場の壁にゴールドスライムを押しつける、壁がビシッ、とヒビが入る。


 至近距離から銃を連射。

 ゼロ距離貫通弾。一点を狙って撃ち続けた無数の銃弾がドリルの如くスライムの体をえぐり、やがて貫通した。


 ポン、と音を立てて消えるゴールドスライム、連射した二丁の銃も消えてなくなった。


 振り向く、残されたシルバースライムに変化が起きた。

 銀色のボディがなんと、金色のオーラを纏いだした。


 なるほどそれが強化か……。


「だが!」


 飛びかかってこようとするシルバースライムに向かって手をつきだし、呪文を唱える。


 リペティション。


 最強の周回魔法、相手がどれだけ強かろうが、後からどんなに強化しようが。

 魔法さえ使えて――効く相手なら唱えた瞬間倒れる魔法。


 シルバースライムは消えた、消えて、桃と銃をドロップした。


 銃と桃を拾いあげる。

 全力を出せば、俺も周回が出来る。

 自分と同等のゴールドスライムを瞬殺する事さえできればシルバースライムはリペティションでカタがつく。


 ちなみにゴールドスライムはムリだ、倒した事のある相手だが、そっちは魔法無効化の特性を持ってる。


 ふと、頬を伝ってあごから何かが垂れてくるのを感じた。

 一瞬とはいえ100%の100%を出したから汗か……と思って手で拭うと赤い血だった。

 頬に触れる、ぱっくりと切れているのが分かった。

 カウンターで避けきれずにかすり傷を負ったようだ。

 やっぱり同じSS同士、そう上手くは行かないか。


 ……だが。

 注射の如く回復弾を自分にうってHPとMPを回復して、次を待つ。

 しばらくするとまた新しい金銀(めおと)スライムが現われる。


 戦いを挑む、全力での戦いを。

 シルバーを隔離し、ゴールドを速攻で倒す。

 同等の相手をいかにして早く倒す、そんな練習。


 俺はこの日、テルル15階にこもり続け。


 ファミリーのデザート用の他に。

 77万ピロの稼ぎを桃でだした。


 まだまだ更新する余地があると思ったのだった。

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[一言] 毎度銃が無くなるのはなにゆえ
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