162.超有能ストーカー
シクロダンジョン協会、会長室。
まるで貴族の執政室のような豪華な部屋の中で、セルに事件解決を報告した。
話して行くにつれセルは徐々に瞠目し、夜間のドロップを完全に止めたことを言うと驚きつつも上機嫌な笑顔になった。
「さすがサトウ様だな、これほどスピーディーかつ完璧な解決、依頼した余も鼻が高い」
「夜はこれで完全に問題なくなったはずだ。昼間に冒険者狩りが起こる可能性は手つかずだけどそっちは問題ないだろう」
「うむ。昼間の狼藉はその場に誰かしら居合わせる」
セルは更に満足そうに頷いた。
報告は終わり、これで本当に一件落着だ。
セルは俺を大いに持ち上げた。
これでもかって位褒め言葉を投げてかけてくるが、俺は密かに警戒していた。
美少女の妹に「さすがですわ」と連呼されると気持ち良いだけだけど、ストーカー貴族に「さすがだ」って言われると今にもフィギュアが落っこちてきそうな気がして怖い。
だからそれを警戒してたんだけど……それは来なかった。
「そうだ、サトウ様にもう一つ相談があった」
「ん?」
セルは不意に表情を変えた。
真顔に――深刻ではないが真剣な顔になった。
「今年度の年度表彰、サトウ様になるという話だが」
「その話がどうかしたのか?」
「出来ればデモンストレーションを行ってもらいたい、大衆の前で」
「デモンストレーション?」
「収穫祭と似たようなものだ。用意したモンスターを倒して力を示す。あれとは違って強力な一体を用意した上で倒してもらいたい。功績は皆が知るところだが、やはりビジュアル、視覚的にその場でアピールした方がわかりやすい」
「なるほど」
ちょっとだけびっくりした、本当に真面目な話だった。
言いたい事もわかる、要請してきた事もその理由もなっとくのものだ。
「そうなるとリペティションじゃなくて、普通に――というか派手に倒した方がいいな」
「さすがサトウ様、余が要請する前に理解してくれるとは」
「分かった、引き受けた」
断ることじゃない、むしろ表彰を引き受けた以上これもやらなきゃならないことだろう思う。
責任みたいなものだ。
「感謝する。では早速ポスターの量産をさせよう」
「ポスター?」
「うむ、表彰者全員分のものをつくるのが習わしだ。サトウ様は最上級の☆7表彰。ファミリーだと兎が☆5、ハンマーが☆2、他の二人が☆1――」
「待て待て、ちょっと待って」
情報が一気に増えて混乱した。額に手を当てつつ、片手をかざしてセルの説明を止めた。
そうしてあれこれ考えて。
「ポスターってなんだ?」
「ちょうどここに試作品がある」
セルはそう言って筒状に丸めたポスターを開いた。
ポスターと言うよりトレーディングカードのようなデザインで、俺の名前とその下に☆が七つ並んだ表記。
そして、冒険者狩りを倒した俺の姿が描かれている。
「ストーカーだー!!」
「この姿を使わせていただく」
「フィギュアだと思ったらポスターかよ!」
「例年通り記念手形版も発行する予定だ」
そう言ってカード大のも取り出した。構図とかまったく一緒だ。
「トレカもあるのかよ!」
「駆け出し冒険者や子どもに大人気のものだ、マニアもいる」
「いるだろうな! ほぼ野球カードだもんそれ!」
「限定版もある。リョータファミリー全員表彰を記念して全員集合版を作らせた」
「どんだけ!?」
「更に――おっと」
ゴトン。
床にフィギュアが落ちた、カードと同じポーズの、冒険者狩りを倒した俺の姿のフィギュアだ。
「失礼、サトウ様と仲間のツーショットの全組み合わせも用意している。ツーショット版は検討した結果☆5が妥当――」
「しれっとフィギュアしまうなっていうかやっぱり作ってたのかよ!!」
突っ込みすぎてのどと頭がどうにかなってしまいそうだ。
カードの話、表彰式の話を説明するセルは出来る男そのものだ。
……なのだが。
仕事出来るストーカーは恐ろしい、俺はそう思ったのだった。