138.エイミング
朝ご飯の後、移転部屋の前。
俺は仲間たちに新魔法、クイックシルバーをかけていた。
クイックシルバー、全魔力を消費して、仲間一人のどれかの能力を一段階24時間あげる魔法。
一回使って、無限回復弾でMPを全回復させて、また使って。
そうして仲間たちの能力をあげてから、ダンジョンに送り出す。
エミリーとセレストは必要回数が少なかった。
二人とも能力はいくつかA――クイックシルバーじゃ上がらないAを持ってるから必要回数は少なかった。
まあ多くても少なくてもどっちもコストは変わらない。MP全消費だけど、無限回復弾で回復できるから、作業の時間がちょっと増えるか減るかだけの話だ。
そうしてエミリーとセレストとアリスを送り出して、最後にイヴの番になった。
「今日も着ぐるみなのか」
「うさぎはうさぎになった」
「イヴは出会った時から今に至るまでずっとうさぎだった気がするけど。前はバニースーツだったし」
「最近は四本耳のうさぎって呼ばれてる」
「四本? ああ自前のと着ぐるみので四本か」
「うん、うさぎ嬉しい」
うれしいんだ。
ほんのりと頬を染めるイヴ。
冗談とかじゃなくて本当に嬉しいみたいだ。
仲間随一の不思議ちゃん、イヴ・カルスリーダー。
未だにその性格を把握しきれていない部分がある。
まあ、それは急を要する事じゃない。
「じゃあ魔法を掛けるぞ」
「いい」
「いい?」
「バフするならニンジンをくれ」
「比較対象がおかしくないか」
「バフするならニンジンをくれ」
まるで某子役みたいな台詞を連呼された。
「いらないのかバフ」
イヴは静かにうなずく。
「ニンジンがいい」
「後で狩ってくる」
「今夜はニンジンの刺身」
またほんのり頬を染められ、そのまま転送部屋を使ってイヴはダンジョンに出かけた。
ニンジンの刺身ってなんだろう。
……エミリーに言ったらそういう料理が出来そうだ。
さて、みんなを送り出したし、俺もダンジョンに行くか。
「あっ、おはようございますリョータさん」
今度はエルザが現われた。
厳密には仲間じゃないが、買い取り屋「燕の恩返し」から我が家に出向してることで、この屋敷に住んでいる女の子だ。
「おはよう。みんな出かけて行ったから、今日も頼む」
「はい」
「それと一つ頼まれてくれるかな。ここにナウボードをつけたいんだけど」
「あっ、そういえばここダンジョンの出入り口の様なものですものね。分かりました手配します」
ダンジョンの出入り口ってのもそうだが、クイックシルバーを使える様になったからここにあった方が助かる。
今朝みたいにクイックシルバーを掛けてポータブルナウボートで確認するのは効率が悪い。
「明日にはもう使えるようになるはずです」
「そんなに早いのか」
「リョータさんは超お得意様ですから」
「そうか」
向き合って、にっこりと笑い合う俺とエルザ。
「ご主人様」
今度はケルベロスがやってきた。
我が家の番犬は巨体を揺らしてズンズンと廊下を進んでくる。
「出かけるんですかご主人様」
「ああ、ダンジョンで仕事してくる。この部屋はダンジョンに直通だからお前は間違っても入るなよ」
「はい」
「それとエルザのガードもよろしく。彼女は大事な人だからな」
「え?」
驚くエルザ、顔が一気に赤くなる。
「ああっ、えとその、だ、大事なお客さんだからだ」
言葉がたらず誤解されそうだったので補足する。
……大事な人でも間違いじゃないんだけど、とりあえずは。
「分かりました。ぼくが一生懸命まもるよ。ご主人様の番犬として頑張る」
「うん。エルザはケルベロスを頼っていい。万が一天気が悪くなったらケルベロスを盾にしてにげていいから」
「ええ!? ご、ご主人様それはひどいです」
「といってもなあ」
「ぼくは頼りになるんですから」
がるるるる、と低いうなり声を上げるケルベロス。
サーベラスという名前のモンスター、巨体の番犬。
図体も大きく殺気も大したものなんだが……。
俺は窓を開けて、外に向かって無限雷弾を撃った。
地面に着弾して、雷光と爆音が轟く。
「きゃいん!」
ケルベロスは尻尾を丸めて怯えだした。
獰猛な番犬だが雷に弱いのだ。
怯えるケルベロスに苦笑いしつつ、エルザにいう。
「とまあ、天気が崩れたときだけはこうなるから、その時はもう盾にして逃げていい」
もちろん冗談っぽく言ったので、エルザはにっこりと笑ってくれた。
「もう、ご主人様ひどいです……」
恨みがましい視線を投げつけてくるケルベロスに手を振って、俺は転送部屋でダンジョンに向かった。
☆
ニホニウムダンジョン、地下六階。
アブソリュートロックの石で無敵化しつつ、毒を放つポイズンゾンビを通常弾でヘッドショットしていく。
倒したゾンビから知性の種がドロップされる、それを拾って知性を上げていく。
この世界の人間はレベルを上げて能力を上げるけど、俺のレベルは最高で1に固定されてる。
このダンジョンで種をドロップさせて地道にあげるしかないのだ。
動きと勘を鈍らせないために、今日は遮蔽物をつかった。
モンスターと出会って、向こうがこっちに気づいていれば即殺、気づいていない場合は地形とかを活用して、気づかれないまま忍者の如く近づいて、至近距離からの暗殺を狙う。
最初は上手く行かなかったが、次第に足音の消し方とか身のひそめ方とか、回り込み方とか分かるようになった。
他のダンジョンとちがって、ここはあまり効率を上げる必要のない場所。
能力あげの場でもあるから、俺にとっては修行の場。
動きとか、ステータスに現われないテクニックを練習しつつ。
今日は、ポイズンゾンビを定数狩って。
―――1/2―――
レベル:1/1
HP SS
MP SS
力 SS
体力 SS
知性 B
精神 F
速さ SS
器用 F
運 F
―――――――――
知性をCからBにあげたのだった。




