131.ゴミあさりの犯人(?)
ニホニウム地下六階、石の姿になってダンジョンを周回する。
毒霧が充満する中、銃を構えてじっくりとヘッドショットを狙う。
ニホニウムはタイムアタックをする必要がないから、こっちでは丁寧にやった。
一発一殺、ヘッドショット100%を維持して狩り進めていく。
ついでに攻撃をよける事も忘れない。
アブソリュートロックの石で無敵になってるけど、それはあくまで毒霧対策。
モンスターの攻撃は横着しないでちゃんとよける事にした。
ゲームをやってる時によくなっちゃうんだが、強くなって格下のモンスターを狩ってる時に能力に任せて大味な動きをする事がある。
それをやらかさないように気を付けてポイズンゾンビを狩り続ける。
攻撃は全部よける、ヘッドショットの命中率は100%維持。
後半になればなるほど集中力が必要になってつかれるが、いざって時のために俺はそれをやり続けた。
午前中いっぱいかけて、知性をDからCにあげた。
もちろん回避も命中も100%を維持したままだ。
☆
昼、午後の稼ぎに出かける前に、一度街にやってきた。
ニホニウムに鏡を捧げてから、残った剣と勾玉を探して街をぶらつく事が増えた。
ダンジョンへは転移でいける様になって増えた自由時間がそのまま街をぶらつく時間になった。
「よお兄ちゃん、煙草どうだい。ヒュドラルギュルム30から60階までの煙草全部あるよ」
「ジンクム特産のイモリ、スッポン、マムシがあるよー。ジンクムのレアもあるよー」
「本日一箱だけ入荷したクリプトンのネギ! 食べてよし振ってよし! シクロのどのダンジョンよりも新鮮でうまい葱だよー」
シクロの街は今日も大賑わいだった。
各地のダンジョンから集まってきた物で市場が賑わっている。
俺が生産した各種野菜もこんな風に世界中の街に流れていってるのかな、って思うとちょっと感慨深かった。
そんな市場を当てもなくさまよう。聞こえてくるダンジョンの名前でたまにおいおいって思うものがある。
ヒュドラルギュルムの特産とか、この世界の神はよっぽど煙草が嫌いなんだなって思った。
ジンクムの精力剤は……まあ何もいうまい。
それらに比べるとアウルムの黄金はストレートで好感すら持てる。
市場を適当にぶらつきつつ、剣と勾玉はないか適当に見て回る。
ふと、市場の一角が騒ぎになってることに気づいた。
どうしたんだろうと向かっていくと。
「モンスターだ! ハグレモノが出たぞ!」
「誰か呼んでこい! ピエールの旦那が襲われてる!」
――ッ!
騒ぎが雑音から判別可能な言葉になるくらいまで近づくと、俺は地面を蹴って更にダッシュした。
騒ぎの発生源、野次馬が遠巻きで取り囲んでいるところで、中年の男がモンスターに襲われていた。
モンスターはフランケンシュタイン、ゴミから生まれたハグレモノだ。
「リペティション!」
今にも男はやられそうだったから、急を要するからリペティションを最速で打った。
フランケンシュタインは音もなく消し去られ、男は助かった。
直後、歓声が起きる。
男を助けた俺にお礼と称賛の言葉が飛びかったのだった。
☆。
「ありがとう、おかげで助かったよ」
「ケガは大丈夫か?」
「ああ、こんなのかすり傷さ」
助けた男――ピエールは肘を見せて笑った。
確かにちょっとしたかすり傷が出来てる、多分逃げる時に壁に擦りでもしたんだろうって程度の傷だ。
大事にならなくて良かった。
「しかし、最近増えたよな」
「増えたって、フランケンシュタインが?」
「知らないのか? 最近街中によく出るようになったんだよ」
そんな事があったのか。
「何でだ? シクロはゴミ処理の業者がちゃんといるんだろ?」
仲間の一人、セレストの前職を思い出す。
この世界では、人間が使い終えた後のいわゆるゴミもハグレモノ化する。
ゴミになったものは元の素材のモンスターじゃなくて、一律でフランケンシュタインというモンスターに変わる。
ゴミを放っておけばモンスターになって害をなすから、この世界では現代日本よりも遥かにゴミ処理が重要視されてて、それが巡り巡ってハイクオリティな住環境に結びついている。
ダンジョンが複数あって、冒険者も多いシクロはダンジョン税によって潤っているため、ゴミ処理もちゃんとしているはずだったんだが。
「それがな」
ピエールは眉をひそめて言った。
「最近ゴミを荒らす輩がいるんだ。何のためなのか知らんが、ゴミを荒らしていくんだ」
「ゴミを荒らす」
「そうだ。それで散乱したゴミがたまにあんな風にハグレモノになっちまうって訳だ」
そうだったのか……。
ゴミを荒らす、誰が何のためにやってるんだ?
ピエールと別れて、俺は意識しながら街中を歩いてみた。
確かにゴミが時々落ちてるのが分かる。
ゴミはモンスターになるから、今までは「0」だったんだ。
必要にかられてなのだが、この世界ではゴミは一切落ちてないある種の桃源郷の様な世界だ。
それが、ちょこちょこ落ちてるようになった。
大通りのゴミはとりあえず問題はない。昼間は人がいるからハグレモノにはならない。
しかし。
ヒューーーー…………。
風が吹いて、ゴミが舞い上がり、裏路地に運ばれていく。
ちょうど見えたから、とっさに火炎弾でそれを燃やした。
こんな風に人気の無いところに運ばれたゴミがやがてハグレモノになって、さっきみたいな騒ぎを起こすんだな。
にしても、なんでゴミなんかをあさるんだ?
☆
屋敷に戻って、アリスに声を掛けた。
街でおきている事を説明して、聞く。
「アリスは街でも、モンスターの居場所を感知できるか?」
「できるよ、ホネホネたちとかくれんぼうする時はそれで全勝するからね」
得意げに話すアリス。彼女の肩に乗っているモンスターたちが飛んだり跳ねたり、ポカポカ殴ったりと抗議した。
仲がいいな相変わらず。
「それならちょうどいい、しばらくの間街のパトロールをしてくれないか。アリスの力なら生まれたばかりのフランケンシュタインを見つけて、人を襲う前にやっつけられるはずだ」
「うん、分かった」
「悪いな、こんなことを頼んだりして」
「いいよいいよ、街のみんなの安全を守るのってかっこいいからね」
アリスは屈託なく笑った。
「あっ、早速みつけた」
「え?」
「あっち。あっちにちょっといったところにモンスターがいるよ」
アリスは屋敷の壁を指さした。
壁だが、その先にはここいらのゴミを集めるゴミ集積所がある。
「ちょっと行ってくる」
「いやいい、この距離なら俺がいってくる。ありがとうアリス」
お礼を言いつつ、俺は屋敷から飛び出した。
アリスがさした方角に向かっていく。
ゴミ集積所に来ると、うごめいてる影を見つけた。
影は小さく、人間ではない。ハグレモノだ。
すぐ近くに民家がある、放っておいたら民家が襲われる。
速攻でケリをつけようとリペティションをうった。
一度倒したモンスターを容赦なく即殺する最強の周回魔法、リペティション。
相手がハグレモノのフランケンシュタインだからそれをうったんだが――きかなかった。
モンスターはゴミのまわりでこそこそしてて、やがて逃げ出した。
「……はっ! 待て!」
リペティションが効かなかったことで一瞬戸惑って動きを止めると、その間に相手は逃げ出した。
追いかけつつもう一回リペティション、やっぱり効かない。
なぜだ? と思って相手を見た。
そいつは布をかぶってて正体がよく分からない。しかしどうもフランケンシュタインではない。
「そうか、ゴミ荒らしか!」
さっきの事を思い出す、こいつはゴミのまわりでこそこそ何かをしていた。それでいてフランケンシュタインじゃない。
ならばゴミ荒らしの犯人かも知れない。
そうおもって、倒すんじゃなくてとっ捕まえることにした。
地を蹴って、速さSSで猛ダッシュ。
逃げるそいつに先回りして、頭……らしきところに銃口を突きつけた。
「動くな」
相手の動きが止まった、プルプル震えている。
俺は銃口を突きつけつつ、そいつがかぶってた布を取っ払う。
「こ、攻撃しないで、ぼくは悪いモンスターじゃないよ」
驚いた、メチャクチャ驚いた。
布の下から現われたのは、毛皮があっちこっち汚れてみすぼらしい格好になってる。
犬、のようなモンスターだった。