1話:なんだって中途半端な男
「…ふむ。よーしじゃあこれ。エイジ解いてみろー」
「あぁ…はい。えー10の二乗の100−3の二乗の9=91。んでーえーっと…」
クラスに静寂の空気が走る。
「すんません。そっからわかりません。」
「あーまた惜しいとこで…全く…この後、高さ×二分の一だろぉ? もういい座れ。」
いつになく不機嫌そうな霧時の声だけがクラスに響く。生徒は誰一人、言葉を発さない。
皆さんは学校の授業を覚えているだろうか。教師が生徒を指名し、生徒が答える。これを繰り返して授業は進む。その繰り返しの中に安定感が生まれ、時折、そのクラスの人気者の子が笑いをとったりして、その安定感が発達する。しかし、指名された生徒が分からずに沈黙すると、たちまちクラスは静かになる。だいたい、教師が指名して与える問題は解けるようなもの。それが解けないとなると、やはり解けなかった生徒には悪いイメージがつく。クラスの静寂がそれを表す。
このエイジがもれなく、このクラスの悪いイメージなのだ。
「なあ日守。マジでさっきのやつ解けなかったのか?」
「解けなかったな。」
「マジか。あんなもん、成績下位の俺でも解けるぜ。」
「成績下位って…俺よりは上なんだろ」
「ハハ!おっしゃる通り!」
「もういいよ…そう毎日ひっつかれるとうぜえんだよ」
「はいはい、おバカなエイジくんは勉強ですかー。いやーすいませんねえ。お邪魔しましたー」
「もう俺のとこなんか来なくていいぞ。」
「あーそう。クラスの生徒会長としてな?生徒の学力をチェックしねえといけえねえのになあ。悪い例が無いと伝わりにくいんだけどなー」
「…マジでもういいから…」
「っは!うぜえな日守!性格悪い男は嫌われるぞー」
「…いやほんっとにもういいから。」
「そうかよ。ほんっとにうぜえわ日守。全部俺の優しい気遣いなんだぞ。」
「それなら、俺に気を使わなくていいから…」
「あっそうですかー。こっちから願い下げだわ〜」
生徒会長、田島翔平はそういいながらリア充グループに戻った。俺に対する愚痴でも言ってるんだろうな、
「っま…どうでもいいし…」
何もかもが中途半端な俺だ。テストの点数は中の下・運動神経の中の下・コミュ力に至っては無。
いわゆる人間の恥さらしってやつだろ。クラスで一人、浮雲でいて…友達と呼べる人はいない。
まあ、正直 いらないと思っている。いちいち気を使うのめんどくさいし、一人の何が悪いんだって話だ。
クラスの人から避けられている理由は他にもある。おそらくこの名前だろう。
「エイジ」なんてカタカナの名前の男、俺は嫌だね。俺の親は生粋のゲーマーだった。そしてゲームの主人公を必ずエイジにしていたらしい。「それくらい大切な意味が込められてるんだぞ」親はこう言った。
俺からしたらバカ迷惑な話だ。こんなキラキラネームつけられると距離ができちゃうんだよね。大人になったら親には内緒で改名してやるんだ。今はしょうがないけど…
こう嫌われていて浮雲な俺が学校に通う理由…それは可愛い子がいるから。
「江ノ真由美」俺のタイプだ。スタイルは可もなく不可もなく。顔はアイドルみたい。性格はおとなしめ。それでいて照れ屋でちょこっと天然。俺とも気軽に話してくれるし、クラスの人気者だ。真由美に会うためだけに俺は学校に通っている。真由美がいなかったら今頃は不登校ニートになっているだろう。
そして俺は今日誓った。正直、田島がうざい。無視しているつもりでもムカつくし、こいつのせいでクラスからの隔離が酷くなっている。だから俺はもう不登校になると決めた。真由美に告白して…