2ー4・恐怖と安堵の一時
あの部屋は、ある老人にとって、牢獄の様に感じた。
けれど身動きも取れない彼にとっては叫びを上げる事すら出来ない。
威厳ある当主の老後。
まさかあの大人しい少女が、全て仕組み、地獄に着き落とされた事を、寝付いてから初めて知った。
(風花。お前は、そんな女ではなかっただろう)
風の様に淡く尊く、
花の様に儚い大人しい少女だった筈だ。
何事も器用にこなし、北條家の威厳を守っていたから
破天荒な行動を移しても見逃してやったというのに。
「当主様、穏やかな顔をされておられますね」
厳造に向けて、傍に居た孝義は呟いた。
普段は病床に着いている厳造にとっては、外に出る事は稀だ。
昔は仏頂面とも思える厳しい顔しか伺えなかったが
現在の威厳の表情はとても穏やかな、何処か安堵をしている表情を見せる様になった。
(久しぶりの外出だからか、
それとも北條の葬儀社にきたからか…………?)
孝義は厳造の表情を見てから、そう思った。
しかし疑問が残る。
あの部屋で、病床に着いている厳造は
何処か怯えた様な、何かに恐れを抱いている様な
暗い表情を見せるようになった様に感じるのは気のせいか。
あの部屋を出ると途端に、
穏やかな何処か安心した表情に変わる。
北條家の屋敷を散歩している際、こういった集いに
現れた際。
あの部屋から
抜け出した当主は、安心した顔色をしていた。
何故、あの部屋に居ると
恐怖に満ちた表情をしているのか。
部屋を出た途端に安堵の表情に変わるのか。
自分の考えが当たっていたとしたら
一体、何に恐れて、怯えているのだろう。
厳造にとって
あの部屋に居ると、嫌でも“あの出来事”を駆り取られてしまう。
自分勝手な当主にとって、自分の過ちを認めたくはない。
あれで正しかったのだ。跡継ぎが決まれば、
その子供だけを置いて置けば良い。
ずっと自分の判断は正しかったと、風花を見る度に思い込んでいた。
けれど
この牢獄に閉じ込められて以来、
あの少年を殺めた事を思い出し、大人へと成長した片割れの少女が微笑む度に、恐怖に震える。
安堵出来る瞬間等、もう何年感じた事はない。
(わしは、どうなるのじゃ)
当主という名ばかりの老人。
北條の権限も司令塔の権利も、着実に”跡継ぎの孫娘”へと向かっている。
自分は冷たい牢獄で酷い恐怖心と後悔に晒されるばかりだ。




