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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
第2章・7年の時を経て動き出した歯車
98/120

2ー3・偶然が仕組んだ再会


風花は内心、驚きを隠せなかった。


もう何年と名前でしか

知らなかった青年が目の前にいるのだから。

会社の集いの場は、数年単位で行われていたが

その際にも一切、青年を目にしなかったからか余計にだ。


(…………何故、今頃になって)


青年の顔を見ると

遥か昔、実家を飛び出した頃の記憶が脳裏に蘇る。


平凡という雰囲気だったあの頃よりも

今は益々、大人な紳士的に何処と無く威厳のある面持ちになっている。

若手ベテランと呼ばれる程に成長した青年の姿は

何処か憂いを交えながらも逞しい。



だが。

自殺を止め、クライシスホームに連れて行き

結局、彼を振り回し北條家に縛り付ける事しか出来なかった。

それは、風花にとって罪悪感となって心に残っている。


あの結果が正しいものとは言えない。

結局、何も言わずに去ったのだから

(いびつ)なになってしまい、良かったのだろうか。


(良かった筈がない)


青年を見て風花に

駆り建てられたのは、罪悪感と後悔しかない。



風花と圭介は固まっているが

秀明は疑問符が浮かび、ぽかんとしている。

対して華鈴は、風花を見た瞬間に、酒の酔いが醒める程の憎悪に掻き立てられた。



「あら、仲がいいのね。

二人で抜け出して密会でもしていたの?」


酒気帯びと媚が混じった独特な声音。

風花が集いのホールを抜け出していた事を、華鈴は知らなかった。

婚約者と会社の周辺で彷徨(うろ)いていたとは。


(風花も隅に置けないわね)



風花と秀明が婚約者同士である事を、華鈴は当然、知っている。

内心、二人が婚約した時、華鈴は喜んでいた。

何故ならば。


(これで風花が圭介に近付く事はない。

圭介はあたしのものに出来る)


根拠のない自信が

自意識過剰な華鈴を衝動に駈らせた。



「………密会か。そうかも知れませんね。

でも華鈴さん。何もないですよ。ただ散歩をしていただけてす」


華鈴の嫌味にも動じずに

くすと笑いながら、秀明は明るく流した。

本音を言って風花と正反対で、色々な目論見がある

華鈴は苦手だけれども深く付き合う必要はない。





(………誰だろう、この青年は)


優しい表情の青年。風花も普段通りにしている。

風花の隣に当然の如く、居るこの青年は。

一人が好きな風花が、この青年と散歩していた?

と疑問に思ったが密会と聞いて、なんとなく理由が分かった気がした。


けれど。

風花には、合わせる顔がない。

だから無意識なふりをして、固まったふりをした。

合わせる顔も、言葉をかける権利も、自分にはない筈なのだから。


ただ

圭介の中で疑問符は、益々増えていく。






両者それぞれが立ち止まった不穏な空気のそんな中

風花はこの気不味い場を抜け出す為に、口を開く。


「圭介さん、そろそろ戻りませんか?

長居をすると孝義さんがご心配なさるかと」

「そうだね。ではこれで」


秀明は軽く笑みを浮かべ、会釈する。

二人は去った。


固まっている圭介を横目に、華鈴はしめしめと思う。

今までどんな手を使っても、圭介は振り向いて貰えなかった。

だが。風花の隣に誰かが居たと思ったら諦めるだろう。



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