表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
第2章・7年の時を経て動き出した歯車
97/120

2ー2・偶然の鉢合わせ

2-の章を

『7年の時を経て動き出した歯車』とさせて頂きます。

遅れてしまい申し訳ございません。



本社の活気溢れる、集いの席を抜け出して

秀明はこっそりと、風花を連れ出した。



廊下は静寂に包まれ

淡い月明かりだけが、廊下に差し込み神秘的で幻想的な世界を造り出している。

秀明の誘われたまま、子犬の様に風花は後を付いていたのだが。


「………秀明、さん」


澄んだ声が、耳に届き足を止める。

後ろへ振り向くと、骨董品の様な端正な顔立ちの美女が居て、思わず惹かれてしまう。

淡い夜光りが更に彼女の美貌を引き立たせている。


「………どうして……」


呆然とする風花に、秀明は微笑んで答える。



「風花、人混みは苦手だろう?」







西郷華鈴は、“北條家当主の孫娘”というだけで

北條家が営む北條葬儀社とも、無関係である。

他人から見れば、葬儀社に勤めている訳でも、

北條家とも関係がない筈の様に見えるのだが。


北條厳造のコネクションなのか、

華鈴はこの集いに姿を現していた。



華鈴は勿論、圭介の傍にいる。




(………俺は華鈴に監視されているのか)



げっそりとした気持ちで、圭介は思う。

この5年間、希望もしていないのに、華鈴は

付き纏いの様に圭介にべったりだからだ。


華やかな豪奢なパーティードレス。

薔薇の髪飾りで、ヘアスタイルは綺麗にまとめられている。

目元を際立たせる程好く濃いアイラインにアイシャドウ。

ルージュのリップ。


少し強めな香水は、酒の香りと混ざって

また少しと酔いを回らせた。


女という武器を糧に、

華鈴は最大限のお洒落を施している。

それは、皆が落ち着いたスーツ等の中では浮世離れして目立つ。

何処かの令嬢の如く格好で、青年の隣に存在感を示していた。


華鈴が付けていた香水と酒の酔いが廻り始めた。

あまり酒は好みではないし、この集いにも慣れていないのが、圭介の本心だ。


(少し、風に当たりに行こう)


このまま酔いが廻ったまま、この人混みに居れば

なんだか最後まで居られない気がして、

酔いに呑まれてしまいそうな気がして、


圭介は華鈴が

自分に目を離した一瞬の隙に、ホールを出た。




淡い夜風が、頬を撫でた。


ホールから出て廊下を暫く歩き、

会社の裏側を眺めるベランダルームまで来た。

透明なシェルター式のベランダルーム空間から先の外界からは、美しい景色が伺えた。


淡い月は満月に満ち、

空にはちらほらと星々が輝いている。


それはまるで、別世界を見ている様だった。



あまり北條家から司令塔で、

指揮を取っている風花にとって、北條葬儀社に来る事は珍しい事に他ない。

だから、あまり会社の事は知らないのだ。


だからこそ、新鮮に見えた。



「………綺麗」


「そうかい」


空の世界の虜になり、その憂いを交ざりながらも

澄んだ漆黒の瞳で見詰めている彼女も、十分に美しいものであった。


さらさらの黒髪。

すらりとした華奢な体躯に、清楚で端正な顔立ち。

飾らない淡い灰色のワンピースは彼女の美貌を引き立たせている。


(まるで、夜空を見ている姫みたいだ)


十分に絵になってしまう婚約者を見ながら、

風花と少し距離を置いて傍に居る秀明は微笑んだ。


圧巻されてしまう程に

彼女は美しく見惚れてしまうけれども

そんな美しい風花を、秀明は眺め見守るだけだ。


触れてしまえば、壊れてしまいそうな

硝子細工の様な儚さと尊さを持ち合わせている彼女に

触れる事は出来ない。


風花が人混みが苦手で、この場は疲れてしまうだろう。

だからと言った代わりにホールから連れ去り

今日の空を見せたかった。


本当は、

二人きりで居たかっただけという身勝手な理由が秀明を動かしていた。

けれど、内心 何処か引いている自分自身もいる。



(彼女は、望んでいない事だ)


深入りし、触れられる事を。

婚約者と定められただけで、この仲は進展しない。

けれど、美しい尊さの花の傍に居られるだけで、秀明は十分だった。


「少しは気分転換になれた?」

「………はい。ありがとうございます」



何気なく聞いただけなのに。

ありがとう、と言った彼女は少し微笑んでいた。

その薄幸ながらの微笑みに、秀明は見惚れ、惹かれてしまう。


けれど。


(期待なんて、持ったら駄目なんだ)


二人がやっている事___

所詮は、“婚約者ごっこ”にしか過ぎないのだから。


「少し散歩しようか」

「はい」



ホールを出ると、

熱気から、淡い優しい風に当たれたせいか

集いの中で眩みそうな酔いを程好く覚ましてくれる。


戻りたくない。

けれど仕事だから戻られねば成らぬ。

先程から携帯端末がよく震えているけれど、圭介は無視した。

相手は解っている。____華鈴だ。


会ってしまえば、華鈴はべったりと干渉する。

少しは離れて一人の時間が欲しいと、圭介は思っていた所だった。


(……………あの子もいるんだろうか)



あの、北條家の影武者。

敏感な司令塔で当主の右腕とされているから、

表向きの北條家の人間だからこそ、集いの席には居る様に思える。


今までの集いで、ちらほらと姿を捜していたが

それらしき女性の姿は見られなかったからか

風花はいないのかも知れない。


だが。


(今更、な)


合わせる顔がないのに。

過去を忘れて平然と彼女の前に現れる気はない。




「圭介、見つけた」


熱を帯び、媚びた声音が耳許に囁かれた。

その囁きに恐怖にぞっとする。


バレたと薄々、声の主の方へ視線を向けると

上目遣いに此方を見て、腕を絡めてくる華鈴の姿がある。


「あたしを放って何処かに行くなんて、冷たいわね」

「彼氏彼女でもないのに、か?」

「そうなっても良いんじゃない?」


華鈴は、そう呟く。

酔いも廻ってきたというところか。




こつこつ、と此方へ迫ってくる靴音。

誰かくる。腕に張り付いた彼女を一旦、離そうとするが華鈴は、離れる気配はない。


此方へ迫ってくる靴音の方へ、圭介は視線を向けた。

見えたのは二つの人影____。

現れた人物は立ち止まる。


だが。

その現れた人物に、圭介は絶句していた。


優しそうな雰囲気の端正な顔立ちをした、まるでモデルの様な青年。

その傍らに立つのは人形細工の様な儚げで薄幸な、整った顔立ちと雰囲気を持つ彼女。端から見れば、かなりの美男美女であろう。



けれど。

青年の傍らに立つ彼女は_____。


(風花………?)


忘れもしない。あの頃よりも大人になった、

背に流した黒髪も質素な美しさも微塵も

何も変わらない北條風花が、其処に居た。






いよいよ、圭介と風花が再会しましたね。

一応ですが、風花に関わった(助けられた)

人物の再会は終了です。

(ジェシカは諸事情により、まだ再会出来て居ませんが……)


圭介と風花の再会はいつ?と

思われた方々、お待たせ致しました。

(作者の目標もようやく達成です)


さて、これから

この複雑な人間関係は

どうなっていくのでしょうか。



最後となってしまいますが

いつもクライシス・ホームを読んで下さる

読書様の皆様、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ