1ー12・望まぬ偶然の再会
北條家、葬儀社には数年に一度、
本社の社員全員が参加する集いがある。
会場は北條家本社の、盛大な野外敷地のホール。
今日は、その集いの当日だった。
集いが始まる時刻は、午後5時。
『お祖父様、久しぶりの集いとなりますね』
風花は、北條家の当主に語りかける。
普段は病床に着いている北條厳造も、今日は車椅子に
乗り、正装している。
____北條家の当主として、集いに参加する為だ。
『お似合いですよ。お祖父様』
落ち着いた、冷えた声音。
普段は、面持ち一つも変えない孫娘が微笑している。
それは、昔とは何処か違う、何かを潜めた微笑み。
(_____何故、おのれは笑うのだ)
厳造は恨まし気に、風花を見る。
昔は表情一つも変えなかったが
だが大人となり、厳造の前ではよく微笑する様になった。
それはまるで、何かを嗤うように。
今まで無表情でいた少女が、
急に微笑みを見せる事になった事が分からない。
けれど、風花が浮かべる微笑が、厳造にとって気味が悪く感じて仕方ない。
昔の様に、少女を殴る気力も罵倒する気力も、
言葉を発する事すら無くしてしまった老人の当主には
成す術が無く、恐怖に震えるだけであった。
時は日が落ち始めていた。
北條家の屋敷から、本社に行くまで風花は歩いて
ふと立ち止まる。
花を買わなければ、と思い出したからだ。
花を差し入れに持ち込まねばならない。
下町の一角にある花屋が目に止まる。
質素で落ち着いた、けれど彩り豊かな優しい花屋。
(___ここで花を買ってから、向かおう)
その優しい花屋の、花の香りに誘われるまま
店に立ち寄って、花々を見詰めては吟味する。
店の雰囲気と同じ、この花々も優しい癖のない淡い花の香りがした。
「何か、お探しですか」
淡く落ち着いた声音。
けれど、それは初めて聞いた声ではない。
店の中に来た人影が見えて、
用事の手を止めて、奥から店内に踏み出した瞬間。
芽衣は、足を止めた。
背に流したさらさらの黒髪。
すらりとした華奢な背中に、人形の様な端正に整った横顔。
その見覚えのある姿に、芽衣は微かに震えていた。
「………風花」
芽衣の呟きに、風花は固まった後、
恐る恐る、視線と声の方へと振り向いた。
ふわふわと白い長い髪に、柔らかで暖かな顔立ち。
あの頃よりも、顔立ちも雰囲気も大人になったか。
(………芽衣)
言葉になりそうになった言葉を飲み込んだ。
二人に驚いた面持ちで顔を合わせたが
互いに素知らぬふりをしてしまう。
その素振りを先にした方は、芽衣だった。
「……どの花になさいますか?」
冷静な声音に、風花も我に返る。
プレゼント用にと選び注文した花々を手早く包み、
会計を済ませた後、風花は逃げる様に店から出て行った。
カウンターの前で、芽衣は立ち竦む。
(あれは、確かに風花だった)
7年ぶりに彼女を見た。
問い詰めるなり、何なりと話せば良かったのだろうが
芽衣はそれを避けてしまった。____それは理由を知っているからだ。
(近付いてしまえば、風花は離れてしまうもの)
風花は、干渉されるのを嫌う。
ジェシカと共に7年前に北條家から追放されたのだから。
下手に彼女へは近付けない。
(また私や母さんの事が、風花に重荷を増やしたら?)
現に風花の傷の元凶を負わせたのは、ジェシカだ。
その娘、という意識が芽衣の心に根強く居座っている。
それは、自責、罪悪感という感情に苛まれてしまう。
(また現れてしまえば、彼女は苦しむかも知れない)
それはまた風花に
強いストレスを与えてしまう。
そんな風花を苦しめるつもりは芽衣にはない。
(それなら、離れていた方がマシよ)
現に7年前に離縁した時、
風花を遠くから見守ると、誓ったのだから。




