1ー11・婚約者からの贈り物
朝の身支度を終えた後、姿見で、自分の姿を確認する。
くるりと一周して、風花は立ち止まった。
浮かんだ表情は、目を伏せ憂いを帯びている。
首元には、不慣れなもの。
秀明から送られてきたネックレスのチャームに
風花は無意識に、不意に指先で触れた。
羽根のシルバーチャーム。
何故だろう。
外す気にはなれない。
秀明は、常に自分を気にかけてくれる。
けれど周りの北條家の人間達との接し方とは、何処か違っていた。
自分の周りには、深入りする人が多い。
“お嬢様”という立場故に目を離す人が居なかったせいか。
それ故に孤独を望む彼女に、誰もが誰も深入りしたがる。
(けれど、私はそれに馴染んでしまったのかも知れない)
北條家の人間としての色に。
人の顔色を伺いながらも、北條が望む理想像を演じてきた。
とっくの果てに人間不信になったというのに。
だが、秀明は何処か違う。
付かず離れず、決して深入りはせず、いつも風花を見守ってくれる。
婚約者して5年。
秀明の態度も姿勢は、微塵も変わらない。
その自然な優しさが、干渉されて育ってきた風花にとって、異色であった。
同時に違和感を感じたのも、秀明が現れてからだ。
秀明の優しさは有難いが、それに慣れていない風花がいる。
けれど。
秀明は、自分にとってこれまで一度も
干渉してきた事も、指一本触れた事は一つもない。
ネックレスを贈られ、付けられた時に、
初めて触れたくらいだった。
(…………私には、勿体のに)
風花が北條家に戻ったのは、
憎しみや憎悪、そして“北條家の人間”としての惰性と復讐心に過ぎない。
相手も傷付けているだろう。
他人との付き合いは不慣れで遠ざけている筈なのに、
秀明との付き合いだって家が決めた婚約者でしかないいのに。
彼に、重荷を背負わせていないか。
風花は、将来の望みを棄てて何も望んでいない。
その証拠として、秀明とは婚約者のままだ。
最初は、警戒していた。
腹を括ってはいたが、厳造が用意した婚約者。
後見人の息子だったのも拍車をかけていたのだが。
目の前にし、彼の内面性を目にして気付いた。
北條家の人間とは明らかに違う優しい秀明に風花は、
悪い感情を抱かなかった。
だが。
秀明を見て、接しては思う。
(………でも、貴方の優しさを、私は受け取ってもよいの?)
祖父の復讐に走っている自分に、これは贅沢ではないか。
心優しい青年を巻き込んでしまっている様に感じて。
有り難さと共に秘かに胸が痛んだ。
「風花お嬢様、そのネックレスは……」
驚き気味の使用人に、風花はふわりと微笑みを作る。
「秀明さんが下さったの」
指先で羽根のチャームに触れながら、代物をみる。
彼女の顔に浮かんだ表情は、稀に見ないものだったからだ。
「まあ、秀明さんが? 良かったですね。
ネックレス、風花お嬢様にとってもお似合いです」
「………ありがとうございます」
でも、一つ疑問がある。
『形だけでいい。
俺ではなくこのネックレスを婚約者だと思ってはくれない?』
この言葉の意味は、どういう事なのだろう。




