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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
第二部・危機に踊り狂う者
93/120

1ー10・花の行方


秀明から送られてきたネックレスのチャームに

風花は不意に指先で触れた。

羽根のチャーム。


何故だろう。

外す気にはなれない。


秀明は、常に自分を気にかけてくれるけれど

何故だか深入りはせず、いつも見守ってくれる。

婚約者して5年。


けれど。

秀明は、自分にとってこれまで一度も

干渉してきた事も指一本触れた事は一つもない。


今回のネックレスを付ける時に、

初めて触れたくらいだった。



相手も傷付けている。

他人との付き合いは不慣れで遠ざけている筈なのに、

秀明との付き合いだって家が決めた婚約者。


最初は、婚約者としか見ていなかったが

北條家の人間とは違う優しい秀明に風花は、

悪い感情を抱かなかった。


(………でも、貴方の優しさを、私は受け取ってもよいの?)


祖父の復讐に走っている自分に、これは贅沢ではないか。

心優しい青年を巻き込んでしまっている様に感じて。

複雑な感情が混じる。有り難さと共に秘かに胸が痛んだ。



使用人と廊下ですれ違った際に、ふと尋ねられた。

使用人の視線の先には風花の首元、ネックレスがある。



「風花お嬢様、そのネックレスは……」

「秀明さんが下さったの」

「まあ、秀明さんが? 良かったですね。

ネックレス、風花お嬢様にとってもお似合いです」

「ありがとう」


風花は愛想笑いで、優しい微笑みを浮かべた。









風花と過ごした年月は、数ヶ月。

華鈴と過ごしている年月は、もう数年になる。


影武者と過ごした期間よりも、

北條家の孫娘と過ごした期間が長い事になるのを

圭介は秘かに驚いている。



確かに風花よりも、華鈴の方が

長く関わりがあるというのに

青年の心には、風花がずっと心に留まったままだ。

それは7年が過ぎた今も変わらない。


寧ろ、突き刺さったままというべきか。



『風花は、どうしてる?』




今まで、何度も尋ねそうになった言葉。



華鈴なら、

“今の風花”の事を知っているだろう。

北條家の孫娘は、ちょこちょこと実家に顔を見せる様だから。


そんな

風花が去って入れ替わりの様に現れた華鈴に

何度か、口が滑りそうになって言葉を飲み込んだ。



彼女の為にも、会わない方が賢明だ。

元はと言えば自分が彼女自身を傷付けたのだから

彼女に会う権利はないだろう。


(きっと、俺は嫌われてる)



けれど

たった数ヶ月間だけ。

過ごした日々はたったの、数ヶ月だけだったのに。


(何故、こんなにも風花の事が気になるのだろう)





風花に与えられたもの。

華鈴は与えられた全てのものに、嫉妬心が駈られた。

北條家の跡継ぎとして、一目置かれていた彼女。


けれど。

風花に与えられたものを、

何一つ。一度も華鈴は奪えやしなかった。


否。奪えるものがなかった。というべきか。

風花の持つ天性の器用な器、才色兼備で非の打ち所のなさ。

冷静沈着で何事にも肝が据わっているところ。



全てが全て調整されたように、完璧な女。

そんな風花に華鈴は何一つ敵わなかった。



そして。

“北條家の跡継ぎ”という座。



正反対の彼女から、奪えるものは何もない。


けれど華鈴にとっては、厳造の孫娘である事は唯一の強味だった。

厳造の孫娘は自分。風花は(ただ)の影武者でしかないのに。

だが。跡継ぎ問題はとても需要なもの。


自分を可愛がってくれる祖父に

なんとか出来ないだろうか、と懇願しても駄目だった。


自分の弱点は知っているけれど

せめて厳造の孫娘として、堂々と居させて欲しい。

だが、そんな願いすら敵わない。


(所詮は、孤児の癖に)





だからなのか。

今では自由の身となった

この青年に、華鈴が必死なってしまうのは。


風花の所有するものに

過剰な執着心と、独占欲を覚えてしまう。

それはまるで癖の様に。


風花のものだった圭介を奪ってしまいたかった。

その為には、圭介に振り向いて欲しくて………。



北條風花の教育係だった青年。

もう北條風花とは無縁なのだから、何をしたって良いだろう。

風花から伝う様に芽生えたこの独占欲や嫉妬心、

遂には恋心を抱いてしまった以上は止められない。



(今度は、奪ってやる。何としてでも………)



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