1ー8・彼女の傍に居る者
厳造が異変を感じたのは、
風花が実家に戻り間もない頃であった。
(何故だ?)
厳造が感じた違和感。
風花は、物静かで大人しい少女そのもの。
名の如く“風の様に過ぎる様な物静かな花”くらいにしか思っていなかった。
だが。
実家に帰ってきた、風花は変わっていた。
特別、急に何かが変わった訳ではない。
容姿もそのまま変わらず、化粧っ気一つもない。
ただ年頃の娘ゆえに大人の女性として、その飾らない美貌に磨きがかかっていたという程度だ。
けれど前とは明らかに違うのだ。
何とも言えぬ静寂な威圧感、そんな雰囲気が少女に備わっていた気がする。
厳造は前みたいに、
風花に手を出せなくなって行った。
直斗の存在を、忘れさせはしない。
あの部屋に居る限り、少年を殺めた事を忘れは出来ないだろう。
(____その度に癪に触って、苦しめばいいの)
祖父の部屋を後にして、縁側の廊下を歩いていると
静かな足音が聞こえてきた。
目の前に視線を移すと、穏和な青年が、軽く手のひらをひらひらさせている。
「風花」
「………秀明さん…」
すらりとした長身の出立ちに
端正に整った顔立ち。それらに備わるのは穏和で
優しげな雰囲気と表情が張り付いた青年。
彼の名前は、荻原 秀明。
風花の後見人だった萩原孝義の一人息子で
便宜上の風花の婚約者だった。
「………何故? 此処に…」
「少し届け物を届けに、風花がお祖父様に部屋にいると聞いたから、挨拶しようと思って来たんだ」
「………そう」
風花は、呟く。
「……お祖父様なら、今、眠りに着いたわ」
「じゃあ、起こすのは無下になってしまう。また機会にするよ」
「………ありがとう」
伏せ目がちな風花に、秀明は視線を寄せた。
静かな花の様な彼女は、健気でなんだか放っておけなくなる。
「………風花、大丈夫?」
「………ええ。大丈夫」
取り繕った声音。
少しばかり今日は不調であった。それを顔に出す気はなかったのだが。
顔色に出ていたのかと少し反省する。
「………無理するなよ」
秀明は、そう呟いた。
青年は彼女の本質を良く知っている。干渉と触れられるのが苦手な事も。
近付くと離れてしまう事も知っているから、秀明はあまり下手に近付きもしない。




