1ー2・花と華に向けられる視線
なんの為に?
自分が生まれた意味は、罪を抱える事だったのだろうか。
そんな自己解決してしまった思いが、今日も彼女の心の奥底で佇む。
緩やかな昼下がり。
立派な日本屋敷の広い庭園。
暖かな陽気、木にはいずれ花を開花させるであろう桜の蕾がところどころに存在を示している。
威厳を持った雰囲気の老人の隣には、若い娘がいた。
「__わしの孫娘だ」
低くしゃがれた声が、こう言葉を紡いだ。
老人の隣にいた娘は、静かにその面持ちを上げた。
その瞬間、青年は息を飲んだ。
艶やかでさらりとし長く真っ直ぐな黒髪。
それは一部だけ後で結われ、後は背に流している。
彼女を見た瞬間に息を飲んだ。
白い肌に、くっきりとした目鼻立ちの整った端正な顔立ち。
切れ長の__澄んだ漆黒の瞳は迷いのない真っ直ぐな眼差しをしていた。
白い襟や裾に細やかな刺繍だけがあしらわれた灰色のワンピース。
清楚で凛とした顔立ちや雰囲気。
思わずその容貌には言葉を無くす程に見惚れてしまう。
彼女は、呟く。
「____初めまして、北條 風花です」
名前の通り、花の様な女性だった。
優雅な花の様な美しさを持つ、美人としか言い様がない。
その佇まいは凛としていて、華族の令嬢の様な、名の通り花の気品すら感じられた。
仕事を終えると、
空は濃紺色の夜空が広がっていた。
初夏の淡い涼やかな風が、頬を撫でて消えた。
圭介は一瞬、空を見上げた後
歩き出そうとしたが、足が止まる。
___目の前には、見知りの人物が居たからだ。
濃いアイライン。
淡い存在感のある桜色のチーク、真紅色の口紅。
ふんわりとした長い巻き髪と、赤いワンピースにピンヒール。
“女性”という雰囲気や人物をそのまま表現した様な、人間が居た。
(逃げたい)
けれど、もう。
逃げられない。
彼女は、圭介を見た瞬間に
ぱあ、と満開に持した花の様な笑顔に変わる。
圭介の前に現れたのは、西郷華鈴だった。
「___やっぱり、来ると思った」
「___居合わせただけだろう?」
圭介は、彼女にそつなくあしらう。
ふんわりと鼻に付く、甘くも強い香水の香り。
圭介に駆け寄った華鈴は媚を売る様な声音を発しながら、
圭介の腕に手を回して、見上げると笑う。
真紅のノースリーブのワンピース。
ざっくりと胸元が開いた服からは胸元の見える。
色仕掛けも成された容姿に、引っ掛からない方の人間の方が珍しいのではないか。
けれど、圭介は振り向かない。
一度も。一瞬でさえも。
真面目だけが取り柄の青年。
色恋沙汰にも無関係で、異性には興味は無いらしい。
(素っ気ない)
殊更、強く青年の腕に絡み付きながら、華鈴は思う。
目の前の現実以外、青年は他の事に見向きもしない。
化粧を変えても、
髪型を変えても、服装で色目を使っても反応は同じだ。
それどころか、青年は自分を見ようともしない。
真っ直ぐ夏に眼差し。
端正に整った面持ちが何を見て、何を考えているのかは分からない。
(全く届いていないなんて)
それにショックを受けた。
けれど分かっている。
青年の心には、あの少女の存在がある事を。
もう7年経過して忘れても良いくらいなのに。
(___どうして、風花ばかり)
目に行くのは、風花という女。
華鈴にとって
それが腹立たしくもあり、悔しかった。
何故、誰もかも北條風花を気に止めるのだろう。




