7ー11・唐突な贈り物
『北條家の関係者です。北條風花さんから、
色々と貴方へお伝えする様に言われ、本日は来ました』
見知らぬ、突然にして家に来た彼はそう言った。
“北條風花”というワードを無視は出来ない。圭介は応答し
話は長くなりそうだと思い、部屋に上がって貰う事にする。
「___すみません、お茶まで」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません」
椅子に腰掛け、対面式に向き合う様に座る。
形だけでも、とテーブルにはインスタントの沸かしたお茶を用意し差し出した。
圭介は緊張しつつ、目の前に居る『北條家の関係者』と名乗る男へ視線を向ける。
“紳士”という貫禄と気品のある人物だった。
彼は然り気無い(さりげない)優雅な振る舞いをしている。
「貴方が、長野圭介さん、ですね?」
「………はい」
「申し遅れました。私は萩原孝義と申します。風花お嬢様の後見人です」
「そうなんですか」
後見人と聞いて、圭介は驚く。
北條風花に後見人が居たというのは初耳だった。
そんな話は聞いた事はない。ジェシカが風花の教育係をしていたとしか。
助手にはフィーアくらいしか、圭介は風花の人間関係を知らない。
だが。風花お嬢様と、当然の様に口にした辺り、北條家の関係者で風花をよく知る人物なのだと分かる。
(___俺は、何も知らなかったんだ)
北條家の、北條風花のお嬢様としての面を。
クライシス・ホームの責任者としての彼女しか知らなかった。
役職だけで、彼女に対する役目は何も果たしていなかったのだと圭介は静かに己の拳を握る。
夕暮れの茜色の空の光が、窓から微かに差し込むのみ。
場は、気不味い雰囲気だった。
「風花お嬢様の、監視や教育役のボディーガードをなされていたと聞いています」
「はい、そうです」
この人は何の為に、来たのだろうかと思っていると、孝義は鞄から茶封筒をテーブルに置き差し出した。
「これは?」
「風花お嬢様から、来月付で長野さん、
貴方をクライシス・ホームから、北條家の本社へ推薦すると」
「え?」
圭介は呆気に取られる。状況が飲み込めない。
差し出した中身は、自分で確かめろという萩原に従い中身を開けると、クライシス・ホームから本社への推薦状があった。
「___どういう事ですか?」
自然と疑問が、溢れていた。
不思議そうに困惑する圭介に、萩原は疑問に思う。
「おや、お嬢様から聞いていませんか?」
「…………すみません、何も知りません。何かあったんですか?」
____北條家、本家。
夕暮れ時。
だいぶ、忘れかけていたこの北條家での生活にも慣れてきた。
春から、大学生になる。近頃は受験に向けて勤勉に励む日々が続く。
そんな中、お茶を差し入れに来た使用人は呟いた。
「今頃、萩原さんが長野さんに、詳細をお伝えしているかと」
「……………そう。ありがとう。引き継ぎの件、よろしく頼むわ」
「分かりました」
少女は参考書を見、ノートを取りながら、話に耳を傾ける。
使用人は、用件を伝え終えると深々と当主の孫娘に頭を下げた。
丁度、勉学中だった風花に届いた知らせは、彼女の望む通りに進んでくれているらしい。
そろそろあの青年に話が届く。彼には、色々と面倒や迷惑をかけ振り回した。
___自分に最後、出来るのはこの事ぐらいだ。
「____では、失礼致します」
「いえ。貴重なお時間を裂いて頂き、色々とありがとうございました」
用件を伝え終えると、萩原は帰って行った。
話は予想通りに長くなり、茜色だった空は濃紺の夜空に変わっている。
萩原を送った後、圭介はベランダで天を仰ぎつつ、愕然としていた。
萩原から全てを知った。
クライシス・ホームは、責任者の意向で畳んだという事。
北條風花はクライシスホームを畳んだのを気に、実家に帰ったという事。
そして、自分は北條風花の監視や教育の役人として一目置かれ、北條風花本人の意向で直々に、北條家の本社へ推薦された。
彼女は失業者となるのを回避してくれたらしい。
圭介は来月から、本元である北條家の葬儀屋で働く事になった、という訳だ。
事がいきなりともあってか、衝撃が佇んだ。
だが。同時に
(___あれだけ暴言を吐いたのに、何故、風花は此処まで面倒を見てくれたのだろう?)
全ては自分が悪いのに。
何故、少女は此処まで計らってくれたのか。
何もない夜空に問いかけても、真意は分からないままだった。




