7ー10・縁切りの少女
___北條家。
北條家当主の和室には、実家に戻ってきたばかりの黒髪の少女が居た。
祖父の前に背筋を真っ直ぐにし、静かに正座している。
端から見れば、容貌・容姿端正の少女は、人形の様だった。
「ジェシカを追い出せと?」
「はい」
孫娘の言葉に、厳造は呆気に取られる。
常に凛とした風花の表情は変わらない。
しかし、予想外の言葉故に、厳造は信じられず呆気に取られてしまったのだ。
孫娘_風花の申し出は
教育係である、ジェシカ・小川を、北條家から追い出せというもの。
厳造には、風花の言い分が理解出来なかった。
(__ジェシカを? 何故だ?)
ジェシカは風花を北條家へ連れてきた帳本人、そして風花の教育係として見守ってきた母親の様な存在だ。
風花もそれなりに懐いていた筈なのに、何故、当然こんな事を追い出すのだ?
「___追い出すというのは」
「彼女を北條家と縁切りさせて、完全に追い出して欲しいのです」
「何の為だ?」
「お祖父様。
彼女は唯一、北條家の内部を知っている人間でしょう。そんな彼女にこれからも居座られたら、不都合も生まれると思うのです。
___それは、お祖父様にとっても、私にとっても致命傷になりえませんか?」
それは、そうだ。
ジェシカは北條家の内部の情報を唯一知る人物。
そしてあの少年を殺めた瞬間の現場も (遅れて来たが) 見ていた。
そう思い返し考えてみれば、風花の言い分は大体、筋が通っている。
風花は、真剣に話している。
否。元から戯言や冗談を一切言わぬ少女だ。今更、嘘の申し出等はしないだろう。
風花は何時だって、真面目で真剣だ。
だが。長年、彼女を慕っていた筈だ。
今までそんな事を口にしなかったのに、今になって突然、何を言い出すのか。
「風花よ。何かあったのか?」
ジェシカを追い出せ、というのは突然な気がする。
実家に戻る様に言ったのは、自分の影響だとは言えども。
この少女の言い分は突然過ぎる。
何かあったのか。
厳造の問いかけに、風花の態度や面持ちは変わらない。
問いかけられた言葉に少女は、一瞬、瞬きをした後に_
「何もございません。
ただ私も18歳になりましたしもう教育係は要りません。
それに私自身、彼女の事は苦手だったので」
目を伏せながら、風花は呟く。
そして。
「北條家の内部を知っている人間は、いずれ北條家に支障を来すでしょう。追い出してしまわなければ」
多額のお金を積めばしまえば、口を開かないでしょう。
そう言った孫娘に、何故か厳造はゾッとした。
風花は、そんな事を言う娘ではなかった筈。
不意に見た、目の前に居る少女は、自分の知っている孫娘ではない気がした。
(ジェシカを、芽衣を、北條家から遠ざけなければ)
罪の無い無実の二人を、北條家に巻き込ませはしない。
傷付けてはならない事だ。それだけはなんと回避しなくては。
例え、言葉や行動が残酷非道だとしても、北條家には近付けさせはしない。
彼女達が、傷付かなければ良いのだ。
『お掛けになった番号は___』
無機質な声に、見切りを付けて切る。
耳元に当てていた携帯端末を持っていた手を下ろすと、青年は溜め息を付いた。
この無機質な声を聞くのは、何度目だろうか。
あのメールが来て以来、圭介は何度か電話をかけたが、北條風花には繋がらない。
メールを真意を確かめたい、そして少女に謝りたい。
その思いが佇んだままだ。
けれど。
全ては少女が、応答しなければ始まらない話だ。
(_____当たり前だと言えば、そうだろうな)
そう思ってから、圭介は自分を嘲笑った。
自分は経営者に暴言を吐いたのだ。少女が、応答しない事自体に答えは出ているのに。
風花の傷心の心を抱えているのに。そんな少女の心に、自分は仕事も果たさず、結果として傷付けただけだ。
止めよう。
自分は、クビになったのだから。
彼女も怒っているに決まっているだろう?
彼女とは、関わらない様にしよう。
懺悔を抱えながら圭介はそう思うと、携帯端末を置く。
時計を見れば、夕飯時の時間帯。
外へ視線を向ければ町は夕暮れに、空は茜色に染まっている。
時計を見れば、夕飯時の時間帯。他の宅の夕食であろう、暖かで優しい焼き魚の香りがする。
だが、圭介本人に食欲はあまりない。
このまま寝てしまおうか、と思った矢先。
不意にインターホンの音が鳴り、そのまま玄関先に行く。
小窓から、外の人物を確認する。
(……………誰だろう?)
知らない人間。
人生経験を積んだ、知的な顔立ちの男性が居た。
「長野圭介さんのお宅でしょうか」
「はい、どちら様ですか?」
そう言えば、相手は萩原と言った。




