7ー9・本来の居場所
空は、夜空になっていた。
曇一つのない、星の一つもない夜空が、無限に広がっている。
何時もより見上げた空は、自棄に虚しく無情に感じた。
アルビノの少女は、そんな空を見終えた後
目の前にある箱を見詰めた。
西洋風の一戸建ての家。
中は広々としていて、解放感のあるリビング。
西洋風のインテリアが並び、明かりには暖かさが混じっている。
芽衣は、自分の家を見て呆気に取られた。
彼女が来たのは、ジェシカが住む家。
__そして。
此処は、自分の生家。
“小川芽衣”としての、自分の居場所だった。
フィーア・トランディーユだった自分は、何故か、綺麗に小川芽衣に戻されており
自分の居るべき場所に、本来の居るべき場所に彼女は戻っていた。
リビングをキョロキョロと見回して、
微笑んだ後に、微笑みは自然と消え失せ芽衣は視線を伏せる。
これが、本来の居るべき場所。確かに、自分は生まれてから拐われるまで居たのだ。
(___なんだか、懐かしい気がする)
物心も付かない、記憶にもない筈なのに、
芽衣は無性に懐かしさを感じて止まなくなっていた。
自分が居た場所、記憶にはないけれど。
夫と娘と一緒に暮らしていた思い出の詰まったこの家を、ジェシカはずっと守り続けていた。
彼女の守り続けてくれたお陰で、こうして自分は戻って来られたのだろう。
「____荷物は、これで終わりかしら」
「___ありがとう、お母さん」
芽衣は母に対して感謝を口にし、微笑んだ。
無邪気な微笑みに、ジェシカも自然と頬が緩む。
娘の表情を見た後でジェシカは大型のボストンバックを担いで家に上がり、リビングにて下ろす。
ジェシカがボストンバックを下ろした先には同じタイプのボストンバックが3つ程。
___これが、芽衣の全ての荷物だ。
今日から、
芽衣は元の生家に戻り暮らす事になるのだから。
風花が突然、姿を消した。
クライシスホームも畳み、アパートとの契約も切ったらしい。
出て行って欲しいと言われた時、何故かという疑問が浮かんだが、それを問う間も無く、別れてしまった。
何度も連絡したが
彼女とは繋がらずじまい。
(___風花は、どうしているのかしら__)
彼女は、どうしているのだろうか。
出会ってから、ずっと一緒に居た分、風花と一緒に居るのが当たり前だと思っていた。
だからこそ、寂しくもあり、妹の様な存在の彼女の身が心配でもある。
アパートの荷物も、風花のだけが先に消えていた。
まるで、最初からいなかったみたいに。
(___無事で、居てくれれば良いのだけれど……)
アパートから出ていかないといけなくなった芽衣は、母であるジェシカと和解とした事もあり、母娘で暮らす事になった。
今日。アパートから荷物を引き上げて貰っていたら、生家に帰る頃には夜になっていたが。
何十年ぶりかの再会と共に、これから、その空白を思い出に埋めて行く為に。
「___不束物ですが_」
一応、礼儀は礼儀だ。
堅苦しく、芽衣はジェシカに告げる。
そう言うとジェシカはきょとんとした後に、口許を覆い、クスクスと笑う。
「なんで、笑って_」
「…………いや、可笑しくて。こないだまでつんけんしていたのが嘘みたい」
「………………」
クスクスと笑った後で
ジェシカは芽衣の肩に手を置いて、優しく頬笑むと呟く。
「良い? 私達は母娘。そして此処は貴女の家でもあるのよ。だから私にも、家にも遠慮なんて要らないの。
だから、好きに振る舞って頂戴」
「………良いの?」
「当たり前じゃない。貴女の居場所なんだから」
クスクスとジェシカは、笑う。
その笑みが移ったのか、芽衣も自然と頬笑んだ。




