7ー5・急変を告げる男
朝。
小鳥の囀りが、響く。
寒い雪解けから、季節は暖かな陽気になってきた。
母とも再会しわだかまりと解けて、気が晴れた筈だったのに。
それは、突然だった。
「____え?」
アルビノの少女は、耳を疑った。
「風花。今、なんて…言ったの?」
フィーア、もとい、芽衣がそう聞き返せば、風花は変わらない表情でこちらを見た。
なんとも言えない、けれど冷めた眼差しと表情で。
風花はくるりと首を真っ直ぐに向けると鏡と向かい合い、慣れた手付きで髪を結び始める。
「___言った通りよ。このアパートを更地にするから、出ていけ、とね」
「………………………」
冷静な声音。
けれど。少女にとっては、棘のような言葉。
(____聞き間違いじゃないのね)
聞き間違いではない。
それを悟った瞬間、芽衣は風花の言葉に絶句した。
いつもの道の筈なのに、ジェシカは違和感を感じる。
いつもの雰囲気ではない。何処か余所余所しく感じ、初めて訪れた感覚に襲われた。
けれどこれが突きつけられた現実なんだと、痛感する。
事務室を開ける。
いつもの空間があれば、と願っていた気持ちとは裏腹に。
見慣れた事務スペースにはデスクや書庫。
休憩スペースに置かれたコーヒーメーカー。テーブルセット。
静かだったけれど、笑みもあった空間。
しかし、今はもぬけの殻の白い空間でしかない。
見慣れたものは一切、綺麗さっぱり何もかも無くなっていた。
もう何もないのだ。
ジェシカは視線を落し、目を伏せた。
(____終わりなのね、もう)
あの少女が創り上げた空間は、もう終わる。
____数時間前。
『お嬢様から、聞いていませんか。
本日付でクライシスホームの運営は停止にすると』
『いいえ。どういう事ですか?』
いつも通り、ジェシカはクライシスホームに出勤した。
しかし入り始めた瞬間に感じたのは、違和感。
なんとも言えない。慣れている筈なのに、まるで初めての場所に訪れる様なもので。
そして、気付いた。
クライシスホームの契約スペースが、全て整頓されもぬけの殻になっていた事に。
どういう事だろう。
誰か呼ぼうかと思っていると、待っていたかの様に
暗い空間の向こう、こつりと靴音を立てながら誰かがやって来る。
暗闇が影響して、最初は警戒したが
相手側の顔を見た瞬間にそんなものは、捨てた。
ジェシカの前にやって来たのは青年。
端正に整った顔立ち、長身痩躯。モデルの様な出立ち。
すらりとした出立ちだからか、黒いスーツが映えて見えた。
ジェシカは知っている。彼は、北條家当主が用意した、北條風花の後見人、萩原 孝義だ。
孝義が現れた瞬間、
ジェシカは驚いたが同時に悟りを開く。
理由は解る、
大概、彼が出てくると良からぬ知らせの象徴なのだから。
___そして、上記の事を告げられた。




