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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
【第7章~苦悩の先に待つもの~】
74/120

7ー3・立場の違う少女の思い



自分は、誰なのか。

自分は、誰であるべきなのか。




「…………」



あれから数日。

何をする気も起きず、大学もバイトも休んでいた。

ただベッドに横たわりぼんやりとして過ごす。

実家と縁が切れたと思えば、楽だ。

あまり干渉してはこない。




ふと電源の切ったままの携帯端末が気になり、

おもむろに携帯を持つと端末の電源を入れてみる。

普段から、あまり着信はないけれど

たった今、着信が入る。


“新着メールが、1件”



(………メール?)


誰からだろう。

受信フォルダを開くと、北條風花からだった。



“クライシスホームを、辞めて下さい”



ひと言メールのみ。圭介は呆気に取られる。

どういう事だ?





青年を突き放した方が良いかも知れない。

それと___。






「ねえ」

「……なに?」



夜。寝る体制に入っていた二人は、ベッドの上でに座っている。

フィーアの言葉に、風花は軽く答えた。


「もし、死んだと思っていた人が

実際は生きていたら風花なら、どうする?」

「それは、自分自身の問いかけなの?」

「……………」


図星を突かれてフィーアは押し黙る。

今だ、ジェシカが生みの母である事をフィーアは受け入れられない。

もしも、といった形にして風花に問いかけたが

本当は他人ではなく自分に問いかけていたい言葉なのだろう。

風花は勘が鋭いから、見透かされてしまうのは解っていた筈なのに。


俯くフィーアに、風花は視線を落し考えた。



風花が問いかけられて真っ先に浮かんだのは、

あの幼き少年の姿。




彼がもし、生きていたら?

何事もなかった様に、帰ってきたら?

自分なら、どうするんだろう。




「__おかえり、って言うわ。

次にごめんなさいって。けれどね。そう理想を言えと言われても私には実感が湧かないの」


なんと言えど、

兄が殺された瞬間を見てしまった。

息絶えた兄の最期を見たのだから。

だから、彼が帰ってくるなんて、想像がつかない。


「__だから。

フィーアがの立場なら贅沢だと、私は思ってしまう」

「___え?」

「………私はどんなに足掻いたって、

直斗には会えないけれど、貴女は会えるんだもの。

実の母親が近くに居るのに、自分から避けてる。


私は逆よ。

私は会いたくても、直斗はもうこの世にはいないからどうしようも出来ない。謝ることすら出来ないのだから」


直斗、そう思うだけで胸が締めつけられて。

珍しく少し潤み始めた漆黒の瞳を見て、フィーアは言葉を失い再び俯く。……少女に残酷な問いかけをしてしまった。





休日。

見張らしの良い場所に、フィーアを連れ出していた。

家に籠っていると二人とも気が滅入ってしまう。だからこそ気分転換にと。


フードコートを備えた巨大アウトレットに向かった。

ファッション店に入ると意見を交えつつ、洋服を選び試着した買った。


「___どうかしら?」


フィーアが試着して、買ったのは

淡い桜がちりばめられた、花柄のワンピース。

控えめながら、可憐な雰囲気を残す彼女にはぴったりと似合っている。


「良いわ。似合ってる____」




ショッピングも終わり、

近くの噴水広場を備える川沿いの噴水広場公園にいた。

今日は珍しくお互い、はしゃいだ。



そう思いながら

淡い風に煽られて揺れる髪を払うと切なそうにフィーアは空を見上げた。

空色に茜色が混じる。淡い桃色の雲が生まれている。



このままで良いのだろうか、という密かな煮え切らない気持ちが心に佇む。

どうしてしまおう。


風花は、飲み物を買いに席を外している。

だから、無性に一人で考え込んでしまうのだ。

ふう、と溜め息を着いたその瞬間。






「___フィーア」



声は主は解った。……ジェシカだ。

会いたくない、とも思ったが。




数分前、ジェシカは風花に誘われて、公園に着いた。

二人は今日、普通の女の子としての時間を楽しんでいる筈だ。

その待っていたのは風花。




「___今、逃げたら、もう終わりになってしまう」

「…………え?」

「私に干渉する権利はないけれど、フィーア…ううん、芽衣と仲直りをしたいのなら、今しかないと思うの」



風花に告げられた言葉は自棄に儚げに聞こえた。

彼女が見下ろす視線の先には、切ない表情を浮かべたフィーアがいた。


(____そうね)


本当は生き別れた娘と再会したのだから、元に戻りたい。

逃げるのではなく、自分から歩み寄らないと始まらない。

風花に礼を言った後、ジェシカは踏み出した。






声が震えているのに、気付かれたかも知れない。

けれど退くには退けなくて、ジェシカは娘を見据えた。

フィーアは相変わらず背を向けたままだ。

だが。



『……私はどんなに足掻いたって、

直斗には会えないけれど、貴女は会えるんだもの』


そうだ。

風花は会いたくても、一生会えない。

ずっと罪悪感に苛まれていても、詫びる事も出来ない。

対して自分は母親が居て、こんな優しい声をかけてくれる。……彼女が言った“贅沢”という意味。

……一晩、置いて、それが解った気がする。


「__風花を傷付けて、傷付け続けたこと。

それは何度も謝っても済まされない事よね。貴女が怒る理由も、私を受け入れられないのも解るわ。


ちゃんと調べて、貴女が生きていると知れば良かった。

でも、過ぎた事は戻せないわよね。

ただ私から貴女に言えるのは。



ごめんなさい。……それだけよね」

「___……………」



胸が詰まる。

そんなジェシカに、フィーアは___。



「____もう、いい」

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