7ー3・立場の違う少女の思い
自分は、誰なのか。
自分は、誰であるべきなのか。
「…………」
あれから数日。
何をする気も起きず、大学もバイトも休んでいた。
ただベッドに横たわりぼんやりとして過ごす。
実家と縁が切れたと思えば、楽だ。
あまり干渉してはこない。
ふと電源の切ったままの携帯端末が気になり、
おもむろに携帯を持つと端末の電源を入れてみる。
普段から、あまり着信はないけれど
たった今、着信が入る。
“新着メールが、1件”
(………メール?)
誰からだろう。
受信フォルダを開くと、北條風花からだった。
“クライシスホームを、辞めて下さい”
ひと言メールのみ。圭介は呆気に取られる。
どういう事だ?
青年を突き放した方が良いかも知れない。
それと___。
「ねえ」
「……なに?」
夜。寝る体制に入っていた二人は、ベッドの上でに座っている。
フィーアの言葉に、風花は軽く答えた。
「もし、死んだと思っていた人が
実際は生きていたら風花なら、どうする?」
「それは、自分自身の問いかけなの?」
「……………」
図星を突かれてフィーアは押し黙る。
今だ、ジェシカが生みの母である事をフィーアは受け入れられない。
もしも、といった形にして風花に問いかけたが
本当は他人ではなく自分に問いかけていたい言葉なのだろう。
風花は勘が鋭いから、見透かされてしまうのは解っていた筈なのに。
俯くフィーアに、風花は視線を落し考えた。
風花が問いかけられて真っ先に浮かんだのは、
あの幼き少年の姿。
彼がもし、生きていたら?
何事もなかった様に、帰ってきたら?
自分なら、どうするんだろう。
「__おかえり、って言うわ。
次にごめんなさいって。けれどね。そう理想を言えと言われても私には実感が湧かないの」
なんと言えど、
兄が殺された瞬間を見てしまった。
息絶えた兄の最期を見たのだから。
だから、彼が帰ってくるなんて、想像がつかない。
「__だから。
フィーアがの立場なら贅沢だと、私は思ってしまう」
「___え?」
「………私はどんなに足掻いたって、
直斗には会えないけれど、貴女は会えるんだもの。
実の母親が近くに居るのに、自分から避けてる。
私は逆よ。
私は会いたくても、直斗はもうこの世にはいないからどうしようも出来ない。謝ることすら出来ないのだから」
直斗、そう思うだけで胸が締めつけられて。
珍しく少し潤み始めた漆黒の瞳を見て、フィーアは言葉を失い再び俯く。……少女に残酷な問いかけをしてしまった。
休日。
見張らしの良い場所に、フィーアを連れ出していた。
家に籠っていると二人とも気が滅入ってしまう。だからこそ気分転換にと。
フードコートを備えた巨大アウトレットに向かった。
ファッション店に入ると意見を交えつつ、洋服を選び試着した買った。
「___どうかしら?」
フィーアが試着して、買ったのは
淡い桜がちりばめられた、花柄のワンピース。
控えめながら、可憐な雰囲気を残す彼女にはぴったりと似合っている。
「良いわ。似合ってる____」
ショッピングも終わり、
近くの噴水広場を備える川沿いの噴水広場公園にいた。
今日は珍しくお互い、はしゃいだ。
そう思いながら
淡い風に煽られて揺れる髪を払うと切なそうにフィーアは空を見上げた。
空色に茜色が混じる。淡い桃色の雲が生まれている。
このままで良いのだろうか、という密かな煮え切らない気持ちが心に佇む。
どうしてしまおう。
風花は、飲み物を買いに席を外している。
だから、無性に一人で考え込んでしまうのだ。
ふう、と溜め息を着いたその瞬間。
「___フィーア」
声は主は解った。……ジェシカだ。
会いたくない、とも思ったが。
数分前、ジェシカは風花に誘われて、公園に着いた。
二人は今日、普通の女の子としての時間を楽しんでいる筈だ。
その待っていたのは風花。
「___今、逃げたら、もう終わりになってしまう」
「…………え?」
「私に干渉する権利はないけれど、フィーア…ううん、芽衣と仲直りをしたいのなら、今しかないと思うの」
風花に告げられた言葉は自棄に儚げに聞こえた。
彼女が見下ろす視線の先には、切ない表情を浮かべたフィーアがいた。
(____そうね)
本当は生き別れた娘と再会したのだから、元に戻りたい。
逃げるのではなく、自分から歩み寄らないと始まらない。
風花に礼を言った後、ジェシカは踏み出した。
声が震えているのに、気付かれたかも知れない。
けれど退くには退けなくて、ジェシカは娘を見据えた。
フィーアは相変わらず背を向けたままだ。
だが。
『……私はどんなに足掻いたって、
直斗には会えないけれど、貴女は会えるんだもの』
そうだ。
風花は会いたくても、一生会えない。
ずっと罪悪感に苛まれていても、詫びる事も出来ない。
対して自分は母親が居て、こんな優しい声をかけてくれる。……彼女が言った“贅沢”という意味。
……一晩、置いて、それが解った気がする。
「__風花を傷付けて、傷付け続けたこと。
それは何度も謝っても済まされない事よね。貴女が怒る理由も、私を受け入れられないのも解るわ。
ちゃんと調べて、貴女が生きていると知れば良かった。
でも、過ぎた事は戻せないわよね。
ただ私から貴女に言えるのは。
ごめんなさい。……それだけよね」
「___……………」
胸が詰まる。
そんなジェシカに、フィーアは___。
「____もう、いい」




