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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
【第6章~それぞれの苦悩の果てに~】
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6―7・過酷な心境




貴女には幸せになって欲しい。



願うのは、それだけだった。




風呂上がり。

ジェシカから貰った寝間着に袖を通す。

ワンピースタイプの寝間着はなんだか新鮮な気分だ。

自然とくるり、と回ると裾も踊る。


同じくフィーアに渡された包み。

同じタイプのデザインで、淡いピンク色のワンピース。

フィーアも風呂上がりに着る事になった。……お揃いだ。


同じタイプと言えど

少しデザインは少し違う。

風花のはシンプルそのもの。フィーアのは襟や袖にはふわふわとした刺繍が含まれたデザインだ。

質素で繊細な風花には似合っているし、ふんわりとした柔らかな雰囲気や顔立ちのフィーアにも似合っている。



フィーアは、不思議そうに寝間着を詰まんでいる。

真新しい寝間着。一体、誰からだろうか。




“着ました。どうですか”



ジェシカの携帯端末には、

そのメッセージと共に送られた写真には、

自分がプレゼントした寝間着姿の娘達が写っている。

自撮りだろうが、ややブレているのが残念に思った。

きっと、撮影者は風花だろう。


(………可愛いわね)



しかし、ネグリジェ姿の娘達を見ると

素直に沸き上がる頬笑みと、複雑な心境が湧く。



今日は、娘の誕生日。

娘の代わりに、と何処かで思っているのかも知れない

だからこそ娘同然に可愛がってきた、風花とフィーアに贈った。


もし娘が、

成長していたら、少女達の様になっていたか。

彼女の成長する姿を見て行きたかった。けれどそれは永遠に叶わぬ願いだ。





夜。寝床に着いてから

フィーアはぼんやりと、複雑な心境を胸に抱く。

なんと言えば良いのだろう。悩む反面、とても苦しいのだ。

……………“あの事実”はでっち上げではなくホンモノ。



「……………」



寝返りしても、眠れない。



起き上がり、そっと足を地に付ける。

壁に手を置くとそのまま地を踏んで、立ち上がる。

少し不安が渦を巻くのを感じながら、フィーアは数歩、歩いた。


辿り付いた先には、漆黒の少女がすやすやと眠っている。

それは、何処か安らかである。


ベットの傍らに座ると、

静かにフィーアは風花の寝顔を見下ろした。


今日は眠れたみたいだ。

魘される様子もなく、ただ静かに寝息を立てている。

起きる素振りも見せず、疲れからか深い眠りに着いていた。



眠りに着いている間だけ。

眠りに着いている間だけは、北條家の孫娘というレッテルや

責任や重荷を忘れられる一時だろう。



フィーアは妹の寝顔を

切なげな眼差しで、見下ろすとそっと頭を撫でる。

複雑化した心境が渦を巻いて、

目の奥が無性に熱くなり視界がぼやけてきた。



(___貴女に、残酷な事を……)



刹那的な少女。

時に冷酷で、時に優しい。

けれど彼女は名の如く風の様に消え、花の様に散ってしまう。


カーテンの隙間からは、夜空の月明かりが差し込む。

風花の寝顔を見落としてから、フィーアは項垂れた。





「__もって数日でしょう。覚悟をして下さい」

「…………そうですか」



もう見込みがない。

医師は難しい表情を浮かべて、そう宣告した。

途端に泣き出す祖母、圭介は斜めに、そのまま壁に持たれかかっる。

__刻々と、祖父の死期が近付いている。



それは、確実だった。


何でも祖父任せだった祖母は、

この先、どうして良いのか分からないらしい。

祖母は泣き続けるだけ。圭介は項垂れるだけ。


残酷だが

祖父に死期が近付いている今でも、圭介には実感が湧かない。

否。寧ろ、


(___もっと、

憎しみが湧くと思っていたのに)


あれだけ犬猫以下にぞんざいに扱われて

憎んでいないと言えば真っ赤な嘘になる。

ずっと祖父母を恨み、産みの母を恨み、自分自身の敷かれた人生にも恨んでいただろう。否、憎しみしかなかった。

祖父は、特に。


けれど。いざ直面すると

悲しみが湧く訳でも、憎しみが湧く訳でもなく

ただ心には無情が横たわるだけで。

それが意外だった。


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