1-3・クライシス・ホーム1
突然、自殺を止められて何も語らぬまま、
いきなり葬儀屋に連れて行かれた人間が居るのだろうか。
どうでもいい______そう思っていた思考さえも凍り付いて
一体、何をされるのかと思って、
本当に現場にでも行くのかとさえ思ったが
連れて行かれた場所はまたもや拍子抜けしてしまう場所だった。
通されたのは、とある応接間。
純白の部屋で清潔感に溢れ、此処から地下室であるという事を
忘れてしまうくらいの暖かで優しい灯りを灯した部屋には質素にも
同色の対面式に置かれたテーブルと椅子、そして薄いベージュ色の
木製ラックが隅に細やかな存在感を表わしているだけだ。
(……俺って、死ぬ筈じゃなかったっけ………)
圭介はそう思った。
呑気に流暢に此処に居る場合だったか。いや、違うだろう。
見知らね少女に、何故か着いて行ってしまって＿＿。
取り分け、目の前の後ろ姿しか見えない少女を見る。
少女はいつの間にかB4のノート一冊とペンを持っていて片手に持ち
『さあ、どうぞあちらに座って？』と手招きして手を出した。
……此処は葬儀屋。彼女も関係者だろう。
「ちょっと待ってくれ。
君は死に場所に連れて行ってくれるって言ったよな?
それがどうして、こんなところに居るんだ…………?」
「…………………………」
少し焦り混じりにそう告げると、
少女は一切表情を変えなかったが気怠そうに眼を伏せて言った。
「死前の検査だと思ってくれれば良いわ。その後で貴方の自由は約束する」
「…………は?」
圭介は唖然とする。何処までも謎の少女だ。
_______けれど、彼女が言う通り、最後自分は楽になる。
即ち、この魂から解放してくれるという言う意味なのだろう。
遠回しにそれが解った時、ふと違う声が耳に届いた。
「もう、風花は相変わらずなんだから……」
暖かみのある、優しい声音。
そのまま施視線を向けると、其処には車椅子に乗った少女が居た。
透けてしまいそうな肌と長く柔らかな白い髪。円みを帯びた真紅の双眸。
神秘的な顔立ちと温和な雰囲気が印象的で
その髪には星の髪飾りを付けていた。
容貌の整った可憐な娘。そんな印象。
けれど、圭介にある事が浮かんだ。
(＿＿＿＿アルビノ……?)
少女は、アルビノの様な出立ちだった。
そう感じたが、驚きはしない。
誰であろうと人間という種族には変わりなく、それぞれの個性のあるのだから。
けれど、さっきまで気付かなかった。一体 いつの間に居たのだろうか。
少女は、車椅子の手押しハンドリウムを動かして此方へ来ると
優しく微笑んでから、少しお辞儀する様に頭を下げ
「初めまして。貴方が、今回の更生者ですね。
私はフィーア。フィーア・トランディーユと申します」
と丁重に言った。
