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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
【第5章〜少女達の攻防戦〜】
56/120

5ー9・傷よりも深い

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。



もし、神様がいるのなら問いたい。



どうして、この宿命を与えられたのか。






自分の布団は、一人用じゃなかったらしい。

二人寝てもスペースは余裕で、二人だからか暖かい。

ちらりと横を見ると、下ろされた黒髪が布団の上にわだかまり、流れている。


真っ直ぐな、漆黒の髪。

後ろ姿だけだから、彼女が今、何を思い考えているかなんて考えられないけれど。

その受けた恐怖の傷だけは解る。


ふと、枕元に

携帯端末がチカチカしているのに気付く。

ジェシカから貰った物。使い方すら解らなかったが、風花から

『自分が伝えたい事を連絡をしてくれる機械』と手取り足取り教えて貰い、順応している。


光っているという事は何か連絡がきた、という事。

風花とジェシカしか連絡先はないのだが

相手はジェシカだった。



__今の北條家では風花の身が危ない。

暫く、貴女の部屋で寝泊まりさせたいんだけど…。

___私は構いません。

___ありがとう。

じゃあ、風花を、よろしく頼むわ。



そう送信した後で、風花がぽつりと呟く。



「……あのね、ジェシカが言うの。

寝る時は、暫くは此処に居ろって」


物憂げな目。

そんな風花の言葉に、内心 フィーアは思う。


(そうよね)



北條家は危険だ。

当主の孫娘に、陰口や簡単に手を出す使用人が居る。

影武者なのを良いことに、それを利用して貶めるのだろうか。

考えるだけで気分が悪い。


「………フィーア」

「……なに?」



「………本当はね。

なんだか自分の部屋に居たくなくて、此処に来たの」

「………そう」

「いつもは平気なのに、なんだか居心地悪くて」


そうか。

被害を受けたのは、自室だと聞く。

記憶は失っていても体や感情は覚えているのだろう。

痛い程に解る。フィーアもそうだった。


忘れているのか、

ふりをしているのか分からないけれど。



「ねえ、風花」

「…………」

「____私、風花の事、好きよ?」


フィーアの気持ちは飽くまで、ライクだが。


風花は固まった。何を突然。

この少女、穏やかそうに見えて何処か読めない。

好きなんて言葉は、北條家に来てからずっと聞いた事は無いからか、何処か新鮮味を感じる。


「私ね、本当は心細いの。

だから風花。貴女が此処にいる以上は私のどうでもいい話や歌を言うわ。だから、子守唄代わりに私の話、聞いてね?」

「………良いわ」


少女の穏やかな声音は、何処か安心する。

起きて意識がある以上、常に気を張っている風花にとって

こんな安らかに安堵を浮かべられるなんて、いつぶりだろうか。


(………あの頃、みたい)


孤児院にいた頃以来。飽きるまで、兄とお喋りしていたか。

なんだかフィーアは兄の直斗と似ている気がする。

少女の存在は何処か不思議で、心が軽くなった。


「……ねえ、フィーア。お願いがあるの」

「なに?」


ようやく、風花はフィーアと向き合った。

人形の如く、絵に描いた様な綺麗に整った漆黒の少女の顔立ちが伺えた。大人びているのに、フィーアから見た風花はまだ少しあどけなさが残っている。


「……唄、歌って」



何も望まない、細やかな少女の願い。

フィーアは静かに頷くと小さく息を整えて口を開く。

穏やかで優しい声音から紡がれる、綺麗な歌声。


耳に心地好い。

目を閉じると、自然と眠りに誘われていく。


いつの間にか、風花は寝ていた。

そんな風花の寝顔を見て、フィーアは思う。


(………忘れて。無くなって)



少女の痛みが、和らいだらいい。


フィーアは、歌を囁き続けた。



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