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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
【第5章〜少女達の攻防戦〜】
55/120

5ー8・きっかけの悪魔



風花に、

差し伸べられた手を受け取ってから暫く経った頃。

事件は起こった。



風花が、強姦を受けた。

相手は使用人として働き出した若い男。

相手は元々、北條家のお嬢様____風花が目当てだったそうだ。

確かに風花は美しい。儚く尊い雰囲気を持った薄幸の娘。


そんな奴が、のうのうと風花を傷付けた。



相手は北條家の当主によって、罰を受け解雇。

警察も加わり、男は警察行きになるらしい。



フィーアは、心配で仕方がなかった。

恐怖だっただろう。自分の過去と反映して痛い程に風花の気持ちが見に染みる程に解っている。フィーアも、相手の男が許せなかった。


「……風花は? 今、どうしているんですか?」



可笑しいと思っていた。

風花が面倒を見ているので、嫌でも風花とは顔を合わす。

けれど今日はジェシカが現れたという自点で。


(今日は、ジェシカ?)


風花が不在の時には

フィーアの面倒は、ジェシカが全て見ていた。

風花の世話役で教育係だと言うジェシカも優しく気さくで

時折、冗談交じりに風花の自身の事を話し、二人だけの秘密事も増えてきたくらいだ。

多少は打ち解けてきた相手にフィーアは赴くままに尋ねた。




「学校は休ませたわ。今は念のための検査で病院にいる」

「……そうですか」


心配そうに肩を落とし項垂れるフィーアに

ジェシカは肩を叩き、微笑んだ。


「……フィーアは優しいわね。大丈夫よ、ただ…」




風花、強姦された時の記憶がないの。



恐らくは精神的ショックだろうと。

ジェシカの言葉に、フィーアは驚き、唖然。

ただ強姦された、という事実が彼女の記憶が飛んだのは幸いなのか。

当事者の風花は、ただ茫然としているらしい。



けれど傷を負ったのは確かだろう。

彼女が現れない事から相当な傷を追ったのだと思っていたが、時間薬が効くまで現れない風花が現れるのを待ち続けた。


(______大丈夫かしら)






夜。

温かく整えられた布団。

あの頃は冷たいコンクリートで横になっていたから

今はこれだけで、温かな寝具だけで幸せだ。

眠れる幸せを噛み締めていると


突然、障子の向こう__廊下から足音が聞こえてきた。

誰だろうと身を竦めながら、フィーアは足音に警戒する。


誰だろう。

自分の存在を知るのは、あの二人だけなのに。


足音は近付き、

遂にフィーアの部屋の障子を開けた。

驚きと共に恐る恐る、障子の方へ視線を向けると

フィーアはきょとんとする。



(…………風花?)


月明りに照らされた陰。

其処にに居たのは、人形細工の綺麗な顔立ちをした華奢な少女。

けれど疲れきった表情をして、何処か窶れている。


風花は片手には枕を持ち、此方をただ見詰めていたが。




「……フィーア、今日は此処で寝てもいい?」

「……え、ええ………」


そうしか言えなかった。

ただでさえ、心に傷を追っているのに。

ただ忘れたらしい、とは言えど本当は覚えているのかも。

思い出したく無いから、忘れたと言っているのかも知れない。


風花は、手慣れた手つきで、

フィーアの隣に布団を敷き、枕を置いて横になる。

背を向けたのは、きっと、月明りが見えるからだろう。


(…………)


沈黙のみ。

会話なんて、思い付かないし__なんて声をかけるべきかも分からない。

今はそっと、しておくべき。

風花はあまり馴れ合いの好まないし。


ただ、仰向けのまま寝ているフィーアに対して、

あちらは何度も寝返りを繰り返している。

眠れないんだろう。


「……ねえ、フィーア」

「なんですか?」

「……そっちで寝てもいい?」


ぽつりと呟かれた言葉に、フィーアは拍子抜けする。

孤高で潔癖症のお嬢様がどうしたのかと思ったが、

今日は事が事だった故に何かあるのかも知れない。


二言返事で返すと漆黒の少女は、布団に入ってきた。


(……懐かしい)


あの地下室に監禁されていた頃、

自分は年齢は解らなくとも、一番お姉さんだったらしい。

小さい子の面倒を良く見ていた事を思い出しながら、くすと内心笑う。


(まるで、妹みたい)


素直に、そう思った。




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