5-3・少女の譲れない意地
華鈴の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
初めて祖父から怒鳴られた。それが衝撃的でしかない。
「お前がわしの孫娘である事は事実じゃ。
だがな、“北條家の後継ぎ”は風花が継ぐのだ。
それに現実を見ろ。
大体 お前は………葬儀の場やお経、仏壇が苦手であろう。
北條家は代々葬儀屋として役目を果たしてきた家柄だ。
それはなんとしても変えられない」
「………っ」
それを言われて仕舞えば、元も子もない。
それは今でも変わらない。葬儀屋の娘に生まれながら
華鈴はその根本が苦手なのだから。
けれど。
この風花への嫉妬心は心を掻き立てて心を燃やしてならない。
このどうにも出来ない感情をどうすれば良いのか。
(____本当の孫娘は、あたしなのに)
「華鈴。わしはお前に無理強いしたくない。お前は自由に生きて行けばいい」
「でも、お祖父様………あたしは許せないの。風花という存在が………。
あたしから全てを奪った女を………見ながら耐えろって言うの。
“お祖父様の孫娘で跡継ぎの立場“は
あたしが本来、居るべき立場に居るんだから………。
あたしは戻りたいだけなの。葬儀は苦手だけど、元の立場に……
お祖父様の孫として、この家の娘として………それは我が儘なの?
風花は所詮他人よ。あたし達を裏切るかもしれないのに。
それなのに………お祖父様は風花を……選んで信じ切って。
あたしが“北條の娘”で居ることは駄目なの?」
厳造は思った。華鈴は深く風花に嫉妬という執着を寄せている。
昔からそうだ。風花への僻みはとても強く
ジェシカから華鈴が、風花に危害を加えたという話は何度も聞いた。
(何故、華鈴は、風花を僻む?)
華鈴を避難させただけというのに。
孫娘は跡継ぎの立場を欲したがる。
可愛い孫娘に無理強いはしたくない。
それにもう既に風花を北條家の後継者と立ててしまった以上、世間体には変えられない。
孫娘は、華鈴は不憫だ。
けれど優秀の塊のである風花も厳造にとって手離せない。
秀才の塊である彼女は北條家の必要材料であるのだから。
せめて、この執着心を他へは向けれないか。
「華鈴。お前は確かにわしの孫娘だ。それは変わりない。
だからこそ。わしは北條家にお前を疎外されたくないのだ。分かってくれ」
たった一人の孫娘。
そんな彼女を北條家に居ることで傷付けたくない。
歩き、電信柱を見つけてはその度に影に隠れる。
それを繰り返しながら、漆黒の少女の背中を見失わない様にしていた。
(なんだか、不審者みたいに思われないか………)
圭介は結局、風花の跡を付けてしまった。
ジェシカは風花からお咎めが怖いと自分任せにするし、
フィーアは意味有りげに微笑し続けるせいで
気になって促されるままに来てしまったのである。
(___いや、待てよ)
否。圭介は開き直った。職権乱用でもいい。
自分の役割を思い出す。自分には、北條風花の監視人兼教育係としての役割りが与えられているではないか。
風花の監視人として、凛として居ればいいだけの話だと。
自分に言い聞かせた。
風花はそれ程、遠くにはいかなかった。
彼女が足を運んだ先はクライシスホームから
少し離れた商店街のアーケードの一室の民家に入って行く。
其処は町では廃墟同然と言われた有名な場所だ。
そんな、今にも崩れてしまいそうな外壁の家に、迷いもなく消えて行く。
(………不味い、不法侵入じゃないか)
何時しか、フィーアが言っていた言葉を思い出した。
風花は破天荒者で何をするか解りやしないと。
何をするか解かないが取り敢えず、
彼女の様子を見張らねば。
(行くか………)
そう思った時、踏み出した筈の足が止まる。
否。動けなかったのだ。誰かに腕を掴まれてしまっていた。
視線を見下ろした圭介はデジャブに襲われる。
其処には居たのは
お姫様の様な茶髪のウェーブヘアに、色濃いメイク。
見上げた目と無垢紛いの微笑みは、あの日に戻された様子だった。
厳造は、華鈴に甘いものの
やっぱり北條家の家柄になると風花を選ぶのです。




