5-1・本当の心
新章スタートとさせて頂きます。
「では、どういうプランが希望ですか?」
淡々と業務をこなしている風花とフィーアがいた。
あの一件____フィーアが華鈴に脅しにも似た反撃をしてから、借りてきた猫の様に華鈴は大人しくなった。
今のところ北條家から何らかの伝達もない。
華鈴にとって大人しいと思い込んでいた、フィーアが余程怖かったらしい。
圭介さえも驚いた。普段温厚な塊のフィーアがあれだけ怒りを見せたのだから。
(_____人って分からないよな)
荷物を運びながら
遠巻きにフィーアを見て圭介は染々とそう思う。
対して風花はと言うと、
ようやく普段通りの振る舞いを見せる様になった。
まるであの事が綺麗に何も無かった様に。
けれど。
全てを知った上で見る彼女は何だか無理している様に見えた。
普段、苦労も愚痴も吐かない上で掴めない人物故に、
それが心配となってしまう。
決して深入りはしないけれど
家柄の事もあって無理を強いられ続けているのだろう。きっと。
「風花にフィーア、圭介君は休憩して____……」
「はい」
休憩をもらえる事になった。
圭介は背伸びし一息入れ、フィーアも凝った首を回している。
そんな中微動一つしなかった風花は突如、立ち上がりコートを羽織る。
「ジェシカ、休憩って何分間?」
「10分程度ね。風花、何処に行くの?」
「なら行けそうだわ。ちょっと出てくる。すぐに戻るから…」
「そう。気をつけるのよー」
そう言うと、とことこと彼女は事務所を出ていく。
「風花、何処に行くんですかね?」
「私も知らないわ。あの子はインドアだから仮眠室で寝てると思ったんだけど。
最近は休憩時間には何処かに鳥の様に行って帰ってくるわね……」
「…………」
そんな会話を聞いていたフィーアは、
やがて頬杖を着いて穏和に微笑むと話している二人に悪戯っぽく言った。
「あら。じゃあ、風花に尾行したら良いのに」
途端にぽかんと口を開けて、フィーアの元に視線を向けた。
本人は悪戯が混じりながら当然の事を言ったように真剣な様だ。
圭介は鳩が豆鉄砲を食った様な顔をして固まる。
フィーアは更に微笑を深めて
「圭介さんは兎も角、ジェシカさんならお知りでしょう?
風花は鈍感で自分の事にしか興味がない人間だって…。
それに圭介さん、気になるなら尾行すれば良いんです。
貴女の仕事は『監視人』でしょう? 気になったら風花を見張って下さいな。
距離を置いて着いて見れば風花は気付かないですよ。きっと」
『風花お嬢様、何かありましたらお伝え下さいね。
何か力になりますからね』
『遠慮なんてしないで。貴女は北條家の娘様なのですから』
(上辺のなんて、やめて)
小さい頃から、北條家の使用人そう言われてうんざりする。
本当は"他人の子供は歓迎してなかった癖に"。
上辺でそう言っていても
最も血縁関係を重んじる北條家にとって、自分は大事な華鈴の影武者。
華鈴が家業を継げないから自分がその運命を背負う事になったに過ぎない。
そう言われる度に、人が信じられなくなってくる。
(本当は、孤児だって哀れんでいる癖に)
風花はとっくの果てに知っている。
使用人らは本当は自分を哀れみの目で見る。孤児の子供だと。
仕方ないと思い、自分は自分の感情を押し殺して、北條風花であろうとした。
何故かって?
北條家は
それしか求めて居ないのだから。
自分の素直な個々の心情等、北條家は求めてなんかいない。
所詮は結果だ。結果しか見ない。
跡継ぎとして、次期当主として優秀な結果を残せばいい。
そうすれば穏便に、日常は過ぎていくのだから。




