4-11・劣等感の塊
華鈴は、北條家に生まれた。
待望の初孫。そして北條家の親族が皆、後継者が出来た事を喜んだ。
これで北條家は安泰だと思い、彼女に葬儀者としての教育を施そうと思った矢先。
華鈴は、駄目だった。
葬儀が営まれる雰囲気に、棺の中で眠っている人間が死者なのだと知って
悲しみと共に『相手は生き返らない死んでしまった』という気持ちが根付く。
お経の歌や音色は死者が居なくなった事を示すモノだと恐怖に震えた。
いつしか我を喪い、暴れて泣き叫び全力でこの場から逃げたかったのだ。
そんな華鈴の姿を見て、祖父は気付いたらしい。
自分には、葬儀者として、後継者として相応しくないと。
それから、
北條家には自分と同い年くらいの女の子を連れてきた。
黒髪黒瞳の、人形細工の様な儚く美しい娘を。
その子が自分の代わりの後継者と知って育てられる。
そう知った瞬間に華鈴には嫉妬の心。
(どうして、あたしじゃなくあんたが…………)
自分の立場を奪われた。
自分は本家から分家に追いやられたのに
何故、他人の奴が北條家の後継者としてのうのうと居るのか。
敵対心と嫉妬。
風花という少女は優秀の塊だった。
何もかも万能に出来て周りからも期待されて。
その整った容姿も天性の才能も、全てが華鈴には羨ましくてならない。
自分には決して手に入らないもの。
西郷家に居ても、祖父は目をかけてくれる。自由は許された。
せめて容姿だけでもとメイクを施して、風花と同じ色の髪は染めて人形さんの様にクルクルと巻いた。
せめてでも輝かしく思われたい。
その一心で。表だけでも自分を磨いて見せた。
けれど、一度歪んでしまった性格は変わらない。
それどころか風花への嫉妬は見る見るうちに歪んでいく。
風花さえ居なければ…自分は北條家から入られたのに………。
「貴方、北條風花の教育係よね?」
真っ直ぐとした目で、華鈴は見詰めてくる。
他人からいきなりこう言われたら、困惑するだろうが
圭介は心構えは出来ていた。
(見ず知らずの他人に会って、
人を呼び捨てで尋ねるなんて育ちが知れてる)
北條家には足許には及ばぬが、圭介自身も
祖父母によって厳しい他人への礼儀の教育は叩き込まれている。
西郷華鈴という少女は、目の前のいる人物の事か。
「そうです。……君は確か、こないだ風花と話していた子だよね?」
嘘を付いて、圭介はそう語りかけた。
すると少女の顔は見るからに明るくなり、飛び付く勢いで話しかけてきた。
「覚えてくれていたのね、あたし嬉しいわ。
ねえまだあたし。
自分の事を名乗ってなかったわよね。あたし、西郷華鈴って言うの」
「(……………知っているよ)」
ジェシカから、隅から隅まで聞いた。
だから名前も、素性も知っているけれど、圭介はわざと知らないふりをする。
何処かねちっこく媚を売る様な声音。
圭介は視線を反らすけれど、華鈴はじっくりと青年を見詰めている。
「何か用かな?」
「え? そうね…お目にかかったから声をかけたくて。
実は………後、実は親しくなりたかったの。
あたしも風花の従姉妹で、北條家の分家の娘だから」
「……へえ」
(よく嫉妬を狂う相手を、従姉妹なんて軽々しく言うんだ)
お願いだから、馴れ馴れしく近寄ってこないでくれ。
そう思うけれど相手は離れようとしない。そんな彼女に何か思惑があるのだと
圭介は気付いてしまった。
何か企んでいる。こんな馴れ馴れしい人間は苦手だ。
「ねえ、今度良かったら、お茶しない?」
「え?」
「貴方ともっとお話ししたいの」
(風花のものが欲しい)
奪ってしまいたい。
何不自由無く育てられ、自分の立場を奪った人間が憎らしい。
ただ大人しく分家の娘でいる事は耐えられない。
「あの………気持ちは嬉しいよ。
でも僕は大学とバイトがあるから、時間が無いな」
「そう残念。でも何処かでまた会いましょうね?」
「もしね」
そう口を濁した。
この少女に、あまり関わりを持ちたくないという
感情が芽生えたのは覚えている。




