4-10・残酷な運命
先にフィーアと風花は、家に帰った。
今は身も心も落ち着かせて、ゆっくり休んだ方が良い。
風花は弱っている。
それは言うまでもなく、発作を起こすまでに苛まれたあの出来事だ。
あんな残酷な記憶を、自責の念と弱点を意識の奥底から駆り出され、正気で居られる筈がない。
一息着こうとダージリンの紅茶を入れてから
リビングへと言った時、ソファに眠る少女が居た。
その傍には、手元には常備薬を入れている専用のケースが少女の指先に触れている。
俄かに蓋の閉まっていないケースを見て、きっと薬を飲んだのだろう。
傍に置いてある軽い毛布をそっと彼女にかけた。
だいぶ窶れた風花に、フィーアはそっと彼女の髪を撫でて目を伏せて見守る。
嗚呼。
かわいい妹、自分を助けてくれた恩人。
色々な感情が混ざりながら
フィーアはふと"ある事"を思い返していた。
(あれは、誰の悪戯かしら?)
あの手紙を送り付けたのは、一体 誰だろう。
風花の精神を揺らし追い詰めたあの一通のメッセージ
手紙。
あれは直筆じゃない。
パソコンか何かで打たれた文字を印刷して作ったものだろう。
送るとしたら誰が、と考えて、フィーアの脳裏にふとある人物が浮かぶ。
(……まさか)
クライシス、ホームの関係者がする訳がない。
圭介は何も知らないし、自分とジェシカは最善の注意を払いながら接している。
他の関係者も風花の素性は『北條家のお嬢様』としか知らない人物。
だとしたら。
それに、フィーアはある違和感を感じ取っていた。
メッセージからは強く甘い香りがしていたのが、確信に近付ける。
…____だとすれば、疑われる人間はただ一人。
そう思った時、電話の着信が鳴る。
ふと携画面の相手を見てから、フィーアは着信を取る。
「はい、ジェシカさん。どうしたんですか?」
『風花の事、任せちゃってごめんなさいね。風花の様子はどう?』
「今は薬も飲んだみたいで、寝ています。どうしたのですか?」
『いや風花は勿論。貴女も大丈夫かと思って…ね』
電話越しから尋ねる様に言うジェシカにフィーアは苦笑した。
きっと前にパニック起こした事を気にしているんだろう。
「そんな。私は急に話が出て来てパニックになっただけですよ」
『そう。……なんだか貴女、前より強くなったわね………?』
「そうですか? そんな………。気のせいでは?」
ありふれた嘘を。
自分自身が強くなった筈がない。
ただ自分は、風花の恩のお陰で生き長らえているだけだ。
ジェシカから善きタイミングで、電話を来た事もあり
フィーアは身を乗り出した。
「ああ、一つ思い出した事があるんです。
実はジェシカさんに一つお願いありまして」
『私に? 何かしら?』
「あの____」
丁度、陽が暮れ始め空は茜色に染まっている。
少し重たい脚を引き摺る様に歩きながら、帰り道。
圭介は未だに戸惑いと謎を抱えていた。
ミステリアスで何も語らず、その素性さえ感じない風花が
一生のトラウマを背負い生きる残酷な過去を背負っていたとは。
何も語らないだけで本当は何かを抱えて内では苦しんで居たんだろう。
(………何も知らなかった。
知らないまま、彼女を傷付けていたのかも知れない)
最初は素っ気なかったけれど、
最近は段々と打ち解けて来て自然と話す様にもなった。
けれど時折に見せるぼんやりとした眼差しは、意味も解らずぼんやりとしていて。
あの頃は気付かなかっただけで
全てを知った今ならその遠い眼差しの意味が分かる気がする。
……彼女は何処かで懺悔と共に、兄を後を追って居たんだ。
そんな時、どんと誰かにぶつかった。
慌てて視線をやった先に、圭介は驚いた。
長い茶髪の巻き毛。
年に見合わない派手なメイク。
この小柄な少女にには見覚えがあった。
この間、北條家の墓地に居て風花と何かを話し込んで居た少女だ。
「ごめんなさい。大丈夫かな?」
「ええ」
華鈴は答える。
痛がる表情は微塵も見せない。
何故ならば、“自分からわざとぶつかった”のだから。
(……………この男ね)
嗚呼、風花の教育係の青年が今 其処に居る。
華鈴は言った。
「貴方、北條風花の知り合いよね?」




