4-6・崩壊への始まり
可愛い孫娘に大変な苦労をさせたくない。
同い年の見合った子供を、養子縁組して次期当主にするという。
北條家を絶やす事は出来ない。表向きでも次期当主の誰かを用意しないと。
だが、ジェシカは乗り気ではない。
厳造の誘いをそれとなく避けて、数年は何事もなく回避していた。
ジェシカには不安があったからだ。
(____自分勝手な人間なのに)
この喜怒哀楽の激しい老人に他者の子など
愛せるのか。ちゃんと面倒を見れるのだろうか?
其処まで考えて、もう結論は出てしまっている。
きっと無理であろう。
そんな不安があった。
だから、孤児院に勤めているから、
孤児を持って来いと言われても、断じてジェシカは嫌であった。
けれど、この不運は誰が仕組んだのか。
それともこの北條家の当主が仕組んだのだろうか。
数年後の冬。孤児院が火災になった。
出火原因は分からない。飛び火により孤児院は火の海と化す。
出火してから炎は消える事はなく孤児院の建物を燃やし尽くした。
熱い、熱い火の海。
燃え焦げたた柱が倒れ、孤児院の形を無くしていく。
辺りは騒然として混乱の渦に巻き込まれ、悲鳴だけが木霊していく。
火が消えたのは
建物が黒焦げになって建物が全焼してからだ。
火の海の土壇場で逃げられた職員や子供は逃げられた一瞬にして
火が広がったので、焼け跡あったのはほとんどが見つかった死者の遺体ばかり。
幸い、ジェシカは火傷や擦り傷を負いながらも無事だった。
けれど火の海に包まれていく孤児院、周りに倒れ伏せた亡骸。
それらを見、選択の猶予もないまま、ジェシカは心を錯乱したまま火の海に留まり、夢遊病の如く子供達を探し回った。
(___まだ、生きてる子がいるかも知れない)
火の海の中で、絶望に佇みながらも、人を探した。
__________そして見つけた。
焼け跡の瓦礫の影にいた、双子の兄妹の姿を。
二人の姿は見た事がある。あの、兄妹だ。
それからの事はあまり覚えていない。
火の海を抜け出してただ双子の手を取って途方に暮れた。
何処に逃げようか、何処へ行けばいい?
家に連れか帰って仕舞おうかと考えたが、
孤児院で働いているジェシカにとって、自分の生活費だけで精一杯。
子供二人を養う甲斐性はない。
二人は不自由を要するだろう。
焼け跡から逃げ出して
どうしてしおうかと迷った時に厳造の言葉を思い出す。
『___養子縁組をして、その子を育てよう』
養子を欲しているのなら。
もしも、この子達の身の安全を保障してくれるのなら。
今思えば、自分の判断が間違えていたのだと痛感する。
北條家に来た。
使用人は、ジェシカの姿を見て絶句した。
厳造の部屋に連れて行って貰い、双子を見せる。
「その子達は…………」
ジェシカの身に纏っていた衣服は焦げて破れて、
肌には擦り傷があちこちに付いている。厳造は驚いていた。
血に濡れていたのだろう。服に付いた血は乾き、変色していた。
彼女の両脇の傍らには見知らぬ子供が二人、それぞれジェシカの手に引かれている。
「おじ様。今朝ニュースで、
孤児院が全焼したのはお知りでしょうか」
「ああ、知っておるぞ。お前は無事だったのだな?」
「はい」
ジェシカは、ボロボロで視点によっては痛々しい。
あの孤児院が全焼する中で、生き残ったのは幸いだったのか。
ただ顔には疲労が伺え、目は虚ろ。見るからに疲れ切っている。
「この子達は、奇跡とも呼べる孤児院の生き残りです。
この家で育ててはくれないでしょうか。
孤児院が燃えてこの子達には行く宛も身寄りもありません。
おじ様、養子を欲しがっていたでしょう?
この子達を養子縁組候補に挙げてはいかがでしょうか」
「………………………」
「この子達を幸せにして欲しいのです。衣食住の確証を」
ジェシカの申受けに絶句する。
今まで避けてきたというのに、ジェシカは子供を連れてきた。
けれど養子を欲して北條家の跡継ぎにするという厳造の思惑は変わらない。
それぞれジェシカの隣で不安そうな面持ちをする兄妹を見回す。
二人共、愛らしく端正な顔立ちをしている。
孫娘と同い年くらいの、年頃か。
「その子達は華鈴と同い年くらいか?」
「ええ。殆ど変わりません。
この子達を引き取って兄妹仲良く育って行って欲しいのです。
変わりに私はこの子達の教育係と世話役を引き受けます。
この子達の面倒は私が見ますので……。
どうかお願いします、この子達を助けて下さい」
ジェシカはそう土下座した。
そんな厳造は頭を上げろと行って、ジェシカは頭を上げる。
「良かろう。
この子達を引き取って北條家の子供として育ててようぞ」
そうにっこりと微笑んだ。




