4-2・少女の癖
大人の対応なら、息をする程に1ミリでもその術が分かる。
大人の感情が何処で狂い、何で逆撫でされてしまうか。どうしたら喜ぶのか。
それらは幼少期から北條家の人間によって研ぎ澄まされた感覚。
……風花は、それらの術を全てを知っていた。
その感情も、相
手の芯を付けばすぐにどうすればいいのか分かる。
けれど幼少期から人の顔色を伺い、感情を見てきたせいで嫌になってきた。
それが要因で人と接するのが億劫になり人との付き合いを避け出したのは。
一人が良い。
一人で居れば、誰かの顔色を伺う事も気にする事もない。
成長するにつれて風花は人の顔色を見る癖が治らなくなった同時に
孤独を好むようになった。
_____________それは、今も。
唯一フィーアくらいだ。
顔色伺わずに居られるのは。
けれど何処かで気にしているのかもしれない。
残業という名目で、事務所に風花は居座っている事が多い。
誰の目にも触れる事もなく一人の空間に佇んでいたい。
そんな思いから、殻に籠ってしまいたかった。
誰も居ないと思い込んでいた圭介は
仰天したまま、ぽかんと口を開けている。
それを憂いの眼差しで風花は圭介を見てから
「……どうしたの、こんな時間に」
「いや忘れ物を取りに来たんだけど。誰も居ないと思い込んでて驚いたんだ」
第一、部屋は真っ暗だった。
誰も居ないと思い込んでいて、明かりを付けたのだが
それを除いても風花が居るのが意外だ。
「電気付けたら良いのに。目を悪くなるよ」
「明かりが煌々と付いているのが苦手なの。代わりに暗い場所が落ち着くから。
それに作業中は液晶画面物はブ◯ーライトメガネしてるし」
「そっか…」
そう言えば風花は時々、眼鏡を掛けている時があったかと思う。
たまに眼鏡をかけたり掛けなかったりと
解らなくなるが、元は裸眼らしい。
「……………」
「………………」
会話がなくなってしまえば事務所は静寂に包まれて始める。
静寂に包まれていくと彼女の存在感はまるで透明人間の様に無くなってしまう。
元から居なかった様な感覚に襲われて思わず、ちらりと少女を見た。
彼女は確かに居る。
けれど、存在感が感じられなくなると
同時に距離が遠退いていく感じがするのだ。
(あの日もそうだった)
自殺を決意したあの日。
声をかけられるまで、少女の存在感はなかった。
それは、まるで別世界に住む住人の様で、空気に溶け込んでいる。
「コーヒー頂いても良いかな?」
「……どうぞ、ご勝手に」
沈黙は重い。
耐えられなくなって、声をかけた。
また素っ気なく、熱のない返事。
相変わらずの返事に悟ってコーヒーメーカーにコーヒーを入れる。
これでもまだマシになっただろう。
出会った当初は目すら合わせてくれなかった。
数ヶ月経ってやっとマトモに会話する程になったが、彼女の心のガードは相変わらず固いままで近付こうとすればする程、遠くなっていく。
「そう言えばさ…風花はさ。あの家で育ったんだよね。
凄い屋敷だなって思ってさ。北條家ってどんな感じの家?」
ピタリと、キーボードを打っていた指先が止まる。
"聞かないで"という心とは裏腹に、風花はそっと顔色を見遣った。
全く悪い癖だ。顔色を伺わないと自分の自己主張が出来ないなんて。
唇を噛み締めた後、風花は口を開いた。




