4-1・誰かいる
大学の授業を終えた帰り道。
今日は休日だという事を思い返して、真っ直ぐ家に帰ろうと思いながら
ふと通りを挟んであるの建物から見慣れた人物が出てきた事に気付いた。
風花だ。
けれど、なんだか違う。
疲れて見えて窶れた様子でトボトボ歩いていく。
しかし圭介は風花が出てきた建物に驚きを隠せない。
風花が出てきたのは『野中メンタルクリニック』という病院。
主に心療内科専門クリニックだ。
圭介は建物に近付いて、
去って行く少女の姿と二度見しながら、圭介の中に疑問が浮かぶ。
間違いではない。確かに彼女は此処から出てきた。
……何かあるんだろうか。
普段は悩みすらも何も見せないけれど、本当は何か抱えているのか。
……密かにそんな疑問が浮かんだ。
今日は休日だったが、
事務所に忘れ物をしたと思い出したのは日が暮れてからだった。
クライシス・ホームは365日営業ではなく、北條家からの受けた注文を
割合して仕事が来る。要は風花が独断で立ち上げた更正施設であり、
葬儀の仕事は北條家の家が行っているに過ぎない。
業務時間は終了とっくに過ぎてる上に誰も居ない場所に行くのは
少し躊躇を覚えたが、そんな事を考えた瞬間に風花の言葉を思い出す。
『これは職員専用の合鍵。関係者しか持って居ないの。
何かあったら、夜中でも此処に来て良い事になってる。遠慮なくどうぞ?』
クライシス・ホームに居ると決まった時、責任者直々に渡された鍵。
関係者しか持って居ないが故に、関係者であれば時間問わず出入りして良い。
風花もああ言って居たのだからと思い直して
時刻は遅いがクライシス・ホームに行く事にした。
エレベーターを降りて色々と細かな細工を潜り抜ける。
最初は本当に死に場所になるのかと錯覚しそうになった空間ももう慣れた。
しかし暗闇の世界と言っても過言ではなく、携帯電話の明かりだけを頼りに
本ドアを鍵で開けようとした瞬間に圭介は違和感を覚える。
(……あれ、開いてる?)
鍵が閉まっていない。
ドアノブを引くとそのまま開く。……閉め忘れだろうか。
それは事務所の鍵を開けようとした時も一緒だった。
そろっと開けて、電気を付けた瞬間。
圭介は仰天する程に驚き悲鳴を上げてしまう。
人が居た。
専用のデスクには、長髪で黒髪の少女が居座っている。
良く整った顔立ちのせいか人形が居ると一瞬錯覚したが脳が違うと判断。
その少女は表情こそ無表情なものの、何処か嫌そうな面持ちだった。
「煩い…」
「ごめん、誰もいないと思ってさ…」
そう言えば、責任者は自ら夜勤担当だ。
だから風花は此処に居て深夜でも対応に追われている。
片手で頬杖を付きながら鬱陶しそうな眼差しで、圭介を見る風花。
そんな彼女に両手を合わせて謝るしかなかった。




