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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
【第3章〜心の中にあるもの〜】
32/120

3-10・苦悩の理由



フィーアは頭を抱えてうずくまる。

その怯えた様子に圭介は立ち上がり、フィーアに声をかけた。


「フィーアさん? 大丈夫ですか?」

「………っ」


伸ばしかけた手が空を切って躊躇う。

圭介の問いにも、ただフィーアは頭を抱えて耳を塞ぎ震えているのみ。

辛いという感情が一気に押し寄せ、フィーアの心を締め付ける。

少女の突然の異変に、躊躇いを見せていた圭介だったが




___その瞬間だった。

瞬時にテレビニュースを消して、風花がフィーアに駆け寄ったのは。


風花はフィーアの背中をさすった後、車椅子のブレーキを外して押すと

事務所の部屋からさっさと抜け出して消えていく。

素早い行動にただ圭介は圧倒された。



_____________。




「…………っ」



運ばれている間、フィーアは相変わらず、苦しみに唸っていた。



(____ごめんなさい)



懺悔の言葉を繰り返す。

呼吸が締め付けられる程に、心が苦しくなり過呼吸になっていた。



あらかじめ、決めていた休憩室兼仮眠室。

仮眠室というだけで、奥にはベッドがひとつ。

そして数枚の布団セットが置かれているのみで、簡素としか言えない部屋である。

照明を付け、其処に少女をを送り込むと風花はフィーアを抱えて、備え付けのベットに寝かせる。

フィーアは、震えていた。



「ごめんなさい、番組表を見て注意すべきだったわ」

「……いいえ。大丈夫よ。一瞬の事でパニックになっただけだから」


椅子を持って来て傍らに座り、風花は謝る。

番組表の内容を予め観ていて、そういう話題があるニュースは避けていた。

けれど今回は目が行き届かずにフィーアは見てしまい、混乱してしまったのだ。

フィーアは額に手を置きながら天を仰ぎつつ、風花の言う事を否定する。

その額には暫し汗が滲んでいて、指先は未だに震えていた。

まだ心が混乱している証拠だ。


「ねえ、少し一人にしてくれる? 仮眠も取りたいわ」

「分かった。取り敢えずゆっくり休んで」


照明を消して、風花は去って行った。

仮眠室から去り、事務所に来て風花は一息着く。

壁に横たわりながら居た時、ふと青年が後味悪そうに此方に来ていた。



「フィーアさんの具合…」

「……大丈夫。パニックを起こしただけよ。少し仮眠するって」

「」

「…………そっか」


風花は壁にもたれかかり、腕を組む。

後味が悪い表情は変わらず、圭介はただ足元に視線を落としているのみ。

そうか。彼は知らない。彼女の素性も、どうして混乱したのかも。

自分のせいだと誤解しているのかも知れない。


「___気にしなくて良いから。フィーアがパニックを起こしたのは貴方のせいじゃない」

「………そうかな」


なんとなく近くに居たからニュースの内容は覚えている。あの話題の事も。

彼女の過去を話すのが気を引けてしまうが、知らずにパニックを起こされても、彼は困惑するだろう。

風花は壁に背を預けたまま、遥か彼方を見詰めながら、呟く様に語り始めた。



「フィーアが、アルビノって事は分かるでしょう?」

「ああ」


「ニュースの内容、3年前のアルビノ監禁暴行事件ってあったわよね」

「それ、ニュースでやってた…。俺、初めて知ったんだけど、凄絶な事件だったんだよな。

フィーアさんはなんで混乱したんだ?」


「裏社会の人間に世間はアルビノの子供達が全員殺されたって

思い込んでいるけれど、本当は違うのよ」

「どういうこと?」


「その事件の唯一の生き残りがいる。アルビノの子供達は全員、息絶えたのではない」

「……え」

「その生き残りが、フィーア、なの」



圭介は驚きを隠せなかった。

アルビノ。アルビノ監禁暴行事件の生き残りはいない筈なのに

そのたった一人の生き残りが此処にフィーアだったとは。

風花は冷静に話を続ける。


「北條家の近くだったの。裏社会のアジトは。

三年前は本家で暮らして居たから私も気になっては居た。本家の使用人もお祖父様も

あの場所には近づくなって言われていて、偶には怖い人とすれ違ったりもした。


けれど。あの日。塾の帰り道。

アジトから道へ這い上がって来た人を見つけてしまったわ」

「それが…」

「そうよ。フィーアだったの。全身ボロボロで、傷と痣だらけで。

あの子は死にたいって言ってた。

でも、私の気紛れだったと思うの。


気付いたら、彼女を友人だって言って家に連れて帰って手当て受けさせてた。

最初は怯えてたの。私に何かがされるんじゃないかって。

でも慣れたら色々と話してくれたわ。監禁暴行事件の一部始終を」


物語を朗読するかのように。少女は語る。



「フィーアはね、自分だけ生き残ってしまった罪悪感で

事件のことになるとパニックになってしまう。今回もそれだった…」

「だから、あんなに…」

「だから気をつけてあげて。この事件の事には触れないようにしてあげて」

「うん、分かったよ」


そのまま、圭介は頷いた。

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