3-9・苦悩のはじまり
地下室に事務所があるが故に、地上とは遮断されている。
当然 光りは差さない。代わりに照明は数多くあり、時折 地下室に居るのかと思ってしまう程に大差はない。
そんな中で
フィーアは両手で頰杖をつきながら、考え込んでいた。
事の発端は圭介が発した言葉からだ。
『風花と同い年くらいの、小柄な子と話してましたよ』
同い年くらいの子。
同い年くらいと言えば、北條家と分家の西郷家では限られる。
なんせ二つの家とも大人しか居らず未成年の子供は極少数しかいない。
風花と接点を付けようと絡んでくる人間は限ってくる。
だとしたら_____。
西郷 華鈴。
その子しかいない。
西郷家の少女で、北條家でも好き勝手やっている危険な人物。
華鈴は奥手で、風花を嫌って何処かで落とし込めようとしている。
いつ手を出してくるのかも分からない。……そう考えていた。
風花の様子はいつの間にか普段通りになっていた。
きっと無意識的にあの場所へ足を向けた事が良かったのだろう。
懺悔ながらも風花にとって、北條家での居場所はあの場所でしかないのだから。
フィーアも一度だけ訪れた事がある。
けれど最初は誰の墓なのか、どうして風花が訪れるのかは知らなくて、
けれど少女からその話を聞いた瞬間 絶句せざるを得なかったこと。
あの日の事はよく覚えてる。
僅かな休憩時間。
淹れたての紅茶を見詰めながらフィーアは頬笑んだ。
優雅で穏やかな時間は、細やかな安らぎをくれる。
自分の傍に誰か来る気配を勘付きつつ、視線を向ける。
圭介だ。彼はコーヒーメーカーを操作して、コーヒーを淹れ、飲み始めた。
「そう言えば
フィーアさんって、いつから風花と親しくなったんですか?」
「………そうですね…」
不意に圭介はそう問いてきた。
ふふと微笑みながらフィーアは何処か意味有りげに口を開く。
「そうね。かれこれ三年くらいかしら。
三年前の夏の日にあるきっかけで風花と知り合ったの。
私も、風花に助けて貰ったんです。
私も最初絶望して死にたいと思っていました。けれどそんな時に風花が…ね。
風花に助けて貰ってから私は北條家の里子として暮らす事になったんです」
「そうなんですか…」
「ふふ、案外。私達似た者同士のきっかけかもしれませんね」
紅茶を飲みながら、フィーアは答える。
「ねえ、圭介さん。
風花って冷たいでしょう? けれど案外とても優しいんですよ。
ただ素直じゃなくて。一人でクライシス・ホームを立ち上げたのも風花で
死のうと思っていた私達を助けたのも風花自身なんです」
「へえ……」
そう言えば、全てが彼女が発端だった。
あの線路に飛び込もうとした瞬間に、声をかけたのも彼女。
きっとフィーアも何かのきっかけで風花に助けられたんだろうと圭介は思う。
彼女は掴めないけれどフィーアの言う通り、きっかけをくれる人物だろうか。
風花が気遣い屋で、優しい人物なのは知っている。
そんな時、
テレビのニュースでしていたワイドショーには
今日は『アルビノ』の特集が組まれテレビ画面に放映されていた。
無意識的にフィーアはテレビに視線を向けて、それに釘付けになる。
彼女の視線は全て、テレビの特集に注がれている。
アルビノの特集は、世界各国。
アルビノの特集ともあってアルビノについて一から放映されていた。
おそらく自分と同じ立場でフィーアはその特集に見入っていたが
やがてある言葉がテレビに映された瞬間、フィーアの目の色が変わる。
『日本では
三年前に発覚した、裏社会の人間によるアルビノ監禁暴行事件ですが…。
何十年にも渡ってアルビノの子供達が監禁され暴行を受けていた事件で
13人のアルビノの子供達が殺されてしまいました。
今年、容疑者の男達には無期懲役が下されましたよね』
そんな事件があったのかと圭介は驚きつつ見るが
反対に、俄かにフィーアの指先が震え、瞳が揺らぐ。
それは紛れもなくフィーアの目には恐怖の色が混ざっていた。




