3-6・少女の行方
もし、あの日が違ったら。
もし、あの人に遭遇しなければ。
そんな事を考えながら昔も今を悔いて、風花は自分を責め続ける。
この念も、この思いも、決して死ぬまで消えない________。
北條家の近くの墓地。
北條家の親族が眠るこの墓の奥域には小さな墓がある。
心の念を思いながら風花は買った花束を、墓に置いた。
黒塗りの墓石に手を伸ばしてそっと撫でると、じんわりと冷たさが伝わってくる。
次に墓の側面に刻まれた名前をなぞった。
信濃 直斗 享年5歳。
夜風が肌に触れる。
けれど風花はそれも構わずに、罪悪感混じりに微笑した。
「〇〇駅を降りました」
もう日が暮れていた。
圭介はフィーアから貰ったメモ書きを持ちながら、彼女に電話をかける。
家に居るフィーアは圭介の言葉を飲み込むと冷静に思考を回す。
圭介が探す。フィーアは圭介に指令を出しながら家で待つ。
役割を分担しながら
最寄りの駅に着いたら、フィーアが風花が居るであろう場所まで指示する事を
事前の打ち合わせで圭介に約束していた。
『分かりました。では駅のターミナルがありますよね?
其処の4番・〇〇行きのバスに乗ってその終点で降りて下さい』
「分かりました」
(__其処に居れば、良いのだけれど)
雨がぽつぽつと降り始めていた。
彼女は傘は持って行ったのだろうか。
多分着の身着のままに出て行ったのだから持っていないに違いない。
フィーアの指示通りに4番のバスに乗り込んだ後、終点がどうか確認を取る。
フィーアによれば、終点を降りれば北條家の本家の町に着くらしい。
バスが都心の駅から離れていくに連れて、
雨脚は強くなりだんだんと長閑な田舎に突入する。
(……………風花は実家に帰ったのか)
そう思ったが、その考えは直ぐに搔き消した。
風花は滅多に実家には帰らない。修行の身だがらと帰らないらしい。
また噂に聞いた話だけれど風花は祖父との折り合いがとても悪いのだとか。
フィーアの走り書きした住所と名前は
北條家の近くだけれど、北條家ではなく北條家が所有する少し離れた場所の墓地だった。
何かあるんだろうかと圭介はメモを見ながら思う。
(北條家ではなく、何故、北條家の墓地にいるのだろう)
窓には雨粒がぽつぽつと硝子の窓に付く。
田舎へ向かうバスの中の乗客はあまりにも少なかった。
いよいよ空からは大雨が降り出した。
けれど何故かこの場所から動こうという気持ちはない。
髪も服もびしょ濡れになる事にも構わず、
少女は切ない眼差しで墓の前に座り佇む。
風花の心はこの降り続ける雨の様に沈んでいて、曇り空だ。
ぽたり、頰に着いた雫は雨粒か、それとも涙か。
(_____________ごめんね)
雨に打たれながら、風花はずっと心の中で呟き続けていた。




