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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
【第3章〜心の中にあるもの〜】
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3-3・秘密裏、隠し事



廊下に、静かな靴音が響く。

(かげ)りを見せ闇色を佇ませた瞳は、光りを失っていた。

足取りも何処か重たげな足取りを止めた後、風花は改めて喉元を抑えた。


プロの身として、式の間は平常心で居ようと思ったのに。

そう思う心とは反対に、傷の付いた心はそれを許してくれない。

何時もなら普通だった筈。けれど今回ばかりは傷付いた心が揺れ出して

一瞬、心と思考のコントロールを失ってしまった。



普段諦め。例え何か変化があっても

理性で、諦めの感情で心が揺れる事なんてないのに。


(…………私は、)


北條家の跡継ぎ。

北條家当主の孫娘である、“北條風花”。

北條という名を名乗っている以上は、失敗なんて許されない事だ。


(………失敗や無様な姿は要らないのに)


溜め息と着くと、壁に背を着けて風花はそのまま崩れ項垂れた。

重石が乗った様に体が動かない。




「風花、大丈夫ですかね………」


少女が消えた後、圭介はフィーアに問いた。

今日の風花はなんだか何時も違う。そう薄々気付いていた。

何時も冷静で無表情なのに、何処か揺れている様な節が何度もあったからだ。


少女を伺う監視人の青年は

今にも様子を見に行ってしまいそうだ。

それを引き留めたフィーアは、相変わらず厳しい眼差しだった。

何かを潜めた目を伏せた後、


「調子が悪いんでしょう。誰だって不調な時はあります。

圭介さん。此処の場所を任せても良いですか?」

「あ、はい。分かりました」



「……さて、少し落ち着いたかしら。

悪いですが席を外します。私は風花の様子を見て来ますね」


そう言うと、フィーアは自力で車椅子を動かして消えて行った。



会場から離れた薄暗い廊下。

廊下で、うずくまっている少女の姿を見つけた。

背中に流れる漆黒の髪も、その姿も弱った仔犬の様に小さく、触れれば消えてしまいそうな存在感。


ただ。

フィーアは黙っている訳にはいかない。


「風花」


体育座りをして

項垂れ、蹲りして塞ぎ込んでいた風花にフィーアは声をかける。

覇気がなく何処か窶れた姿は、今にも消えてしまいそうだ。


(…………やはり、ね)


そうと思いながら、

妹の様な存在の彼女に視線を向け、肩に手を置く。



「やっぱり、フラッシュバックでもしたのね」

「………………………」



風花は無言で、こくりと頷く。

何時も平常心の彼女のこんな姿を見るのは稀。

でも長い付き合いのフィーアは風花が塞ぎ込む理由(わけ)は分かっていた。

彼女の唯一の弱点とも呼べるのは、これしかないのだから。


「公私混同も、相手に感情移入する事もない。

貴女にしては珍しいわ」


可笑しいと思っていた。

今回の電話を受け風花が担当責任者となってから、暫くは不自然だったから。

何時も以上に無理をしている様な感じが拭え無くて

夜中に起きていたことも

フィーアは気付かないふりをしながらも気付いていた。


風花は変わらない。

何処か疲れた表情で、喉元を抑え俯いている。

ただ、彼女がいつもの調子を失った事は事実だ。


フィーアは手を伸ばして、背中を摩ると優しく言う。


「大丈夫よ。本番はこれからだけれど他で上手くカバーするわ。

だから今は心の整理をちゃんとしておいて?」

「……分かった」


闇色を佇ませた少女に、フィーアは優しく言う。


(…………敢えて他の言葉はかけない。

貴女自身の問題に、他人が深入りしたら嫌でしょう)




式は慎ましやかに行われた。

晴天の中、火葬まで行くのを見送りながら式は幕を閉じる。

その様子を切ない眼差しで見送って居たのは担当者責任者の少女だった。






「お爺様」



夕方。

北條家当主の部屋。



北條家本家には、華鈴が居た。

今日も用事は無いのだが、愛しのお爺様に可愛がって貰いたいが為に遥々

足繁く北條家へと足を運んで遊びに来ていた。


祖父の机に向かい合わせに座り

華鈴はまるで何かを強請(ねだ)る様に北條家の当主・厳造へと身を乗り出す。



「どうしても、北條家の当主は風花じゃなきゃ駄目なの?」

「何を言っておる。それは当の昔に決まった事だ。変えられ様のない事実だ」



そう言われて、かっと為った。

いくら自分が祖父に可愛がられていると言っても、風花には勝てない。当主の座に座って一目置かれている風花には。


「でも風花は…あんな子よりも、あたしの方が…」

「華鈴、やめろ」


華鈴は感情的に言いかけて、それを厳造は止めた。

言いたい事は分かっている。けれど変えられようのない事実は

その為に厳造が下した全ての行いはもう戻す事も帰る事も出来ない。


「まあいい。

そう言えば風花に新しく教育係が付いたという噂が」

「ジェシカ以外に?」

「ああ」


「ジェシカが言うに、若い青年のようだ」

「そうなの……」



(その教育係。意外と利用出来るかも知れないわね)




夕焼け空の下、華鈴はそう企んだ。

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