3-1・心に潜む闇
他者の死を身を見送ってきた中で、
その度に何度自分を葬り去りたいと思っただろう。
『風花、北條の後継者はお前だ。お前が葬儀者としてこの家を家を継ぐのだ』
厳造は、風花の肩に手を置いて嘲笑う様に言う。
震える心と揺れる瞳で頷いた後、風花はゆっくりと視線を横へ向ける。
それは幼き少女を絶望へと引き摺り込む言葉を。
嗚呼。どうして。
(_____________やめて)
届かない声で風花は叫び、そして思う。
自分は選ばれなければ、良かったのに。
どうして自分が選ばれてしまったのだろう。そんな疑問は消えない。
「…………っ」
咄嗟に目を覚ました。
まだ真夜中。カーテンの隙間から差し込む月明かりが僅かに照らしている。
隣のベットで深く眠っているフィーアを横目に見ながら、風花は起き上がった。
心が締め付けられる苦しい感覚を覚えながら、風花は思わず無意識に自分の胸を
押さえて、過呼吸になりそうな呼吸を殺して整える。
ナイトテーブルに置いた水筒と、枕の下に隠していた薬を取り出し
錠剤をひとつ取ると水を含んで、そのまま飲み込んで一息着く。
水を飲んだ水筒を置くとテーブルに置くと、静かに俯いて
両手で顔を押さえて
風花は罪念の心に苛まれ眠れなくなり、一夜を過ごした。
夕暮れ時。
夕飯の材料を買い込んだ帰り道、
カンカンと鳴り響く遮断機の音が聞こえてふと圭介は立ち止まった。
(______嗚呼)
此処はあの日、自分が死を決意してそれを決行しようとした。
あの時、絶望した自分は遮断機を越えようと身を乗り出す筈だったのに。
それを偶然、北條風花が止めた。彼女が自分に声をかけ無ければ
自分は今はもう此処に居ないだろう。
けれど。
今でも疑問だ。
あれば"偶然"だったのだろうか。
「どうして"あの時"、俺に声をかけたんだ…?」
「偶然、通りかかって声をかけただけよ」
前にそれを問いた時、風花は感情のない声で言っていた。
その艶の無い声だけでも気になってしまってそれは本当なのだろうかと
問いたくなってしまうけれど、北條風花は一切戯言を答えない。
戯言でない事実でさえも。何をしても掴めず何も感じさせない存在。
存在そのものが謎だと、接していく内に分かった気がする。
クライシスホームに来てから数ヶ月。風花も圭介と
素っ気ないながらも些細な会話を挟む様になった。
「はい、ではどのように致しますか。
はい。そうですか、分かりました。では担当者が、私 北條が参ります」
がちゃり、と風花は受話器を置いた。
……次の葬儀の為の電話。その担当者である風花が受け答えしていた。
17歳とは思えない大人の受け答えと対応。表でも冷静な声音が目立つが
慣れた人間への冷たい声音ではなく若干、覇気が篭っている。
「フィーア、後はよろしくね」
「ええ。気を付けて?」
電話が終わった後、風花は立ち上がる。
そして上着を持つと事務の出入り口から出て行った。
「電話の人と打ち合わせですか?」
「あ、いえ。今日は違うんです」
「じゃあ、何処に?」
「それは…まあ、時期に戻ってくるでしょう」
フィーアは、圭介の問いに無理矢理 口を濁した。




