2-8・理不尽なもの
残酷描写有り。苦手な方はお控えください。
私は、誰なのだろう。
私は、何故、此処にいるのだろうか。
光りと遮断された虚空を、絶望の瞳で見詰めながら少女は思った。
(…………何故、此所にいて、私は、誰なの?)
闇の世界。
部屋はコンクリート剥き出しで、冷たさに震える。
極寒の中、少女は目を伏せ膝を抱えて疼くまった。
カチャリ、と軋む音をたてながら鉄製の重いドアが開く。
その扉が開いた瞬間に地下室に閉じ込められているアルビノの子供達が震えた。
この開かずの扉が開かれる時は
恐怖の瞬間で、皆の心に怯えが刻み込まれるのだ。
お互いに寄り添う者もいれば、誰かはこれから始まる事を
悟り理解しただ恐怖に身を竦めている。
フィーアは、憂いた表情で悟る心を身につけて
服の裾を握りしめ、"これから"に唇を噛み締めた。
中に入ってきたのは大柄で人種を問わない男達。
見るからに威圧感がある人物達が地下室へ数十人、わらわらと入ってくる。
リーダー格の男は拳を作った両手を合わせて指を鳴らしながら
鳴らせながら、微笑を浮かべて
地下室に閉じ込められたアルビノの子供達を見下ろした。
そして__________。
「おい、“今日もやるぞ”」
はい、と口を揃えて言う手下達。
普段の声には酒に酔った声音が混ざる。
蒸せる様な酒の臭いに、気持ち悪くて仕方ない。
きっと酒盛りの後に来たのだろう。
けれどその声音自体に、多大なる恐怖心を植え付けるのは、
安々と簡単な事だった。
フィーアは気付かれぬように隅の壁に身を預けながら、
心身の震えを殺して、地下室へと来た男達を見据える。
バリン、とけたたましい音。
その刹那的に、割れた破片があちこちに飛び散る。
鋭利な破片は、フィーアの白く細い腕を掠り、赤い傷を浮かび上がらせた。
微笑を浮かべた男達の、リーダー格の男達が手に持っていた
ビール瓶を壁で叩き割ると、子供達の恐怖心は増殖されて怯えた悲鳴を挙げる。
__________その瞬間。
「キャー」
「嫌だー」
「やめて」
あからさまな悲鳴が地下室に響き、様々な声が飛び交う。
固く冷たい鉄製パイプの棒が、男達の固く力の籠った拳が、足蹴りが
力加減も容赦なくも、強く振り下ろされていく。
手段は色々だが酒に酔い潰れた男達のストレスのはけ口として、
アルビノの子供達は虐待されていた。
(………始まった)
フィーアは隅に居たが、
鉄パイプの棒を持った男に見付かってしまう。
嘲笑を浮かべながら男はじっくりと近付いていき、フィーアは震えた。
「や……………やめて。やめてください…………」
か弱き声は、恐怖に震えている。
そんなこと言わなくても、この惨状は止まない。
けれど目の前の威圧感と心に住み着いた恐怖心がピーク迎えた瞬間。
「小娘の分際で逆らうんじゃねー!!」
「………っ」
男が叫んだ瞬間に鉄パイプの棒が振り下ろされた。
それはフィーアの脚に集中的に振り下ろされ、腕や体にも容赦なく__________。
痛い、痛い。熱に熱した鉄パイプが熱い。
固い棒が脚を殴打して激痛という感覚が
やがて感覚と神経を鈍らせていく。
痛い。
痛みだけが脳に伝達され、支配されていく。
場所を問わずに殴られ蹴られ、精神が消耗していき思考がおぼろげになる。
酒に酔い、狂う男達に言葉なんて通じない。
そんなやり場のない絶望故に涙さえも枯れて、生きる力を失ってゆく。
体じゅうを殴打され
痛みの感覚だけを覚え、逃げ場もなく暴力に耐え続けた。
どれだけ願ったとしても逃げ場がない。
やめて。
心が叫ぶけれども、収まらないのは知っている。
自分自身が絶望に身を投げて身を落とすしかない世界。
目を閉じて、耐えながら
酒に狂った男達の暴行が何時間も続いた。