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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
【第2章〜見送る者の思い達〜】
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2-6・自由な少女と、呪縛の少女


「……今日は来てたの」

「人聞き悪いわね。あたしが来ようが来まいがあたしの勝手でしょ!!」

「……そう。そうよね」


風花は、薄幸の表情で疲れ切った眼差しを伏せた。

華鈴が、祖父の部屋の近くに居たと成れば、話は全部聞いていたのだろう。


華鈴は分家の娘だが、よく北條家へ訪れ長居する事が多い。

祖父・厳造からよく可愛がられていて、祖父に目を掛けられている。

風花と華鈴は犬猿の仲。付け加えれば風花の行動を邪魔するので、風花の敵でもある。


それ故に。

風花はなるべく距離を置いて、関わりは持ちたくないのだが

反して何故だか華鈴は何かと理由を付けては、べたべたと酷く近付いてくる。嫌味を言う為に。

それはまるで、小姑みたいに。


「酷い顔になってるじゃない? 派手に叩かれたのね〜」


媚びを売る様な粘りのある声音。

厳造の前では猫を被った声で可愛く縋り付くのだが、それ以外の人間______は別。今も風花を心配して言っているのではない。

ただ華鈴の興味半分で伺っているに過ぎないのだ。

特に風花には罵倒する様な強い物言いをする。



華鈴の物言いには、

もう慣れ切っている風花は、一切応じず無表情。

しかし華鈴の言う通り、風花の左頬は真っ赤で少し腫れている。

打たれた時の衝撃も相当なものだったが、時間が経つにつれて骨にまで染みる感覚が襲う。

元々から風花は肌が色白な分、余計にそれが目立つ。


無論のこと相当な力で打たれからだ。

痛みはすざましいが。でも風花はちっとも気にしていない。

もう幼少期からともなると慣れているから。


「……何か、用件でもある?」

「いいえ別にいいけど? ただ凄く怒られたんじゃない? あんたがお祖父様に逆らって火に油を注ぐから」

「……もう慣れた事よ。こんな些細な事、なんでもないわ」

「あら良いの〜?そんな強気な事を言って? 気を抜いているとなにされるか分からないのに」



(___帰りたい)



風花は、苛立ちが募る。

受け身の立場と言え、あまり聞き手には向いていない。

疲れている上にこの少女のベタつきのある声音で、戯言紛いの話は聞きたくない。


怒りを掻き立てるかの様な声。

けれどいちいち相手にしても不機嫌になるだけ。

こんな少女に構う気力もない。

風花は早く北條のとばりから出たい。



風花は華鈴を見る。

分家の娘である華鈴は

厳しい北條家の人間達から何も言われず、何をしても許されるのだ。

……当主・厳造から甘く、跡継ぎで孫の風花よりも目を掛けられており

彼女の行動は例え出過ぎたものであれど、無かった事の様に目を瞑られている。


自由が許された分家の少女で、束縛を受けている本家の少女とは大違いだ。


華鈴は厳造から与えられた自由で幼い頃から北條家に干渉してきた。

何も言わない周囲を良い事に、華鈴は良し悪し関係なく

本人も当たり前の様に、それを気にすることなく。



跡継ぎとなる為に北條家の人間から数々のプレッシャーをかけられ

遊びにも目もくれず、修行と勉強だけを積んできた風花とは反対に。

そんな風花も華鈴にずっと振り回されてきた。


対となる少女。

けれど、この関わりを絶つことは出来ない。



華鈴に冷ややかな眼差しを見送った後、風花は実家を飛び出し逃げる様に帰った。







地元の駅。

家路に帰宅する人達がちらほらと伺える。

改札を通った時、ふと視界に見慣れた少女が居た。

車椅子に乗ったアルビノの少女は隅に居て、誰かを待っている。



嗚呼、と思った。

自分が実家に行くと必ず幼馴染の少女は駅の隅っこで待っている。

申し訳ないと思っている最中


黒の瞳と赤の瞳の視線が交わった時、フィーアは優雅に手を振った。

風花は相変わらず伏せ目がちな瞳で、手を振り返して静かにフィーアの元へ行く。

しかし風花の赤く腫れた頰を見た途端にフィーアは驚くが心の中では察しが付く。


(________相変わらず、自己中な人ね)


己の感情だけで、"孫娘の立場に置いた少女"を振り回すあの厳しき当主。

おかげで風花が、傷を作って帰ってくるのは見慣れてしまったけれど

見るだけで痛々しく心が痛む。


「風花、やられたのね」

「……平気よ。大丈夫だから気にしないで」


何時も表情の堅い風花が無理に口元を緩めるのに、

フィーアは気付きながらも気付かずに見ない振りをした。



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