2-5・反発
「……なんだと? 風花、お主 今、なんと言った?」
「……北條家へは戻れないと言ったまでです」
「なんだと!! 小娘の何も出来ぬ分際で、逆らいよってからに‼︎」
その瞬間、乾いた大きな音が部屋に響き渡り、風花の冷たい頬に熱と痛みが走る。
突然の事に少女は思わずよろめき崩れた姿勢で座り込んだ。
……痛みという物理的な衝撃が走ったが、
冷め切った風花の心には何も響かず、1ミリとも動きはしない。
厳造が怒りに身を任せたあまり、感情の行くまま孫の頬を叩いたのだ。
厳造は怒りに震える拳を握り締めながら、風花を見るが
髪に隠れて表情は伺えない。
「いいか、風花。今言った事を取り消すのだ」
祖父の怒りに満ちた言葉に、孫娘は。
「……消せません。
私は修行を積んだ上で北條家に戻りたいのです。
今の何も知らない未熟なままでは、北條家の、お祖父様の跡なんて継げない。
だから……」
「_______未だに戯言を言うのか? 我が儘もいい加減にしろ!!」
風花の決意が気に食わない、厳造は怒りの言葉を投げかける。
そして再び、孫娘を打った手が出した。
瞬間に見えたのは、漆黒の瞳。
普段、上の空のような面持ちと瞳をしているのに
今はしっかりと祖父を見据えている。
まるで何かを訴える様に。
孫娘の瞳を見て寸前で止まった。
……血管が切れる程に怒りに沸騰していた頭が徐々に冷えて冷静さを
取り戻す。今は怒鳴りどんなに言い聞かせても聞く耳を持たなそうだ。
厳造は挙げた手を下ろし
「まあいい。今回は許してやろうか。
でもいいか。お前が今、やっている事は無駄に過ぎん。北條の恩恵があってやれている事だ。お前の無駄な、ままごとを続けていれば良い。いずれ後悔するだろう。
だが。わしはお前が出て言った事も、我が儘な理由でこんな
子供染みたままごとを続けているのも決して許しはしないからな。
肝に免じておけ。もう顔も見たくない帰れ!!」
罵倒似た祖父の怒号に、風花はただ静かに頷く。
「……すみません、失礼します」
そう言って部屋を追い出される。
立ち直って廊下を歩こうと立ち上がり、足音を立てず
静かに歩いているとふと声をかけられた。
「不様ね。見苦しいわ」
「………」
風花はそのまま、声の方へ振り向く。
ある個人部屋の一角。その壁に持たれかかり
腕を組みながら自慢気な面持ちで此方を真っ直ぐに見詰める少女。
染髪した髪に、年に見合わずの派手なメイク。
何時も自信満々な表情を浮かべているのは見慣れたけれども
メイクはより一層に派手目になった気がする。
素顔が見れない。
彼女は西郷 華鈴。
風花と同い年の、北條家の分家に当たる西郷家の一人娘だった。