3ー12・終焉へ
最終回です。
北條家は、混乱の渦に巻き込まれた。
が、後に北條家は破滅。葬儀社は倒産し、北條家の名も没落した。
使用人や北條家の関係者は次々と我先にと、姿を消した。
そして
荻原 孝義も姿を消す事になり
息子・秀明との婚姻話も打ち消しとなってしまった。
秀明は風花に恋い焦がれていただけに、衝撃は隠せない。
けれどこの諦めるしかないと悟った。
孝義が帰る後ろ姿を見ながら、秀明は動けずにいた。
秀明を見つけた風花は、近付いた。
「秀明さん」
「………風花」
珍しく風花は微笑んでいる。
彼女が笑った姿は、初めて見ただろう。
風花は己の首元後ろを、手をに回す。
「…………これ、お返し致します」
「……………?」
風花が、秀明に差し出したのはネックレス。
それは嘗て、自身が風花に贈ったものだ。
最期になるであろう。風花は淡く微笑んで告げた。
「…………ありがとう、ございました」
初めてだった。彼女の微笑みを見たのは。
呆気に取られながら、秀明は告げる。
それで良かったのだ。
この北條家に関わる家柄に絡んでしまえば不幸になる。
それに破滅した北條家に、関係のない青年が関わる必要はない。
「こちらこそ」
彼女とは結ばれなかった。
そもそも彼女は北條家の養女であり、当主と血縁関係がなかった。
まだ突きつけられ露になった北條家の実態に、秀明は追い付けてはいない。
けれど彼女の表情は、曇っていた今までの表情とは違い、
何処か清々しいものだった。
だから、何も言わないでおく。
誰も居なくなった日本屋敷、
喪服の如く、黒いシャツワンピースに身を包んだ彼女は微笑んだ。
ようやく
直斗の件が認められ、彼が報われたのだ。
そして何よりも憎悪を抱いていた、厳造を追い詰める事が出来たのだから。
ようやく目標を達成する事を出来た。
直斗を殺めた男を追い込み、北條家を没落させること。
その為に7年間、進んできたのだから。
(……………終わったのね、このお城は)
駆け込んだカフェにて、圭介は驚愕する事ばかりであった。
フィーアの身元が判明し、彼女はジェシカの娘である、小川芽衣であった事。
そして紆余曲折の末に母娘で慎ましやかに花屋を営みながら、暮らしている事。
「世の中は狭いですね。
まさか、フィーアさん……いえ、
芽衣さんとジェシカさんが親子だったなんて」
「でしょう?」
そんな中、ジェシカは落ち着かない様だった。
北條家の方向に視線を向けては心配げに眼差しを向けている。
(…………なんだか、胸騒ぎがする)
厳造の事はどうでもよい。
ジェシカが心配なのは、風花の方だ。
風花は大人しいけれど、いざとなれば何をするか分からない。
今にも飛んで行きたい気分だった。
けれど北條家を追放された自分には、何も出来ない。