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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
最終章・危機の果てに
117/120

3ー10・当主が選んだ選択


世間は、賑わいという名の、騒然としていた。



『北條葬儀社の会長である、北條厳造氏が

数十年前にに殺人を犯していた事が判明致しました。

警察は直ちに北條厳造容疑者を現行犯逮捕しました』



「…………お母さん、これ………」


「……………」


芽衣は、呆然としている。

報道番組に取り上げられたトップニュースは、

北條家の事で持ちきりだ。


芽衣が呆然と呟いた先に、

ジェシカは、思わず手に持っていたマグカップを落とした。

衝撃がガシャンと響き渡り硝子が割れ、破片が不順に床に散乱する。

ジェシカはニュースの画面に目を見開きながら、固まり、その指先は微かに震えている。


『今から20年前の19XX年、5月31日、

北條厳造容疑者は、養子として引き取った信濃直斗君、当時5歳を

金属バットで殴打し殺害した、ということです。


直斗君は脳挫傷と、くも膜下出血により即死。

しかし、厳造容疑者はこの事実を事故死として隠蔽しました。


北條厳造容疑者には、殺人罪、また偽証罪に問われています』



たまたま、着けたテレビに流れたニュースに圭介は愕然とした。

風花の双子の兄が殺められた事は北條家で密かに葬られた筈だ。

あれから20年、現在で明るみになり、世間に(おおやけ)になるとは。


ニュースの報道によれば

証拠品として少年を殺めた際に、

血に染まった金属バットに畳、畳に微かな毛髪が着いていたらしい。

それらはDNA鑑定により畳に付着していた毛髪は

信濃直斗本人、バットに着いていた指紋は北條厳造のものと一致した。

警察は北條家に居た北條厳造を、直ちに緊急逮捕したという。


(今更何故、明るみになったんだ?)


そんな疑問符が浮かぶ。

唐突過ぎるのだ。20年も隠蔽されていた事を明らかになるなど。





「あれは、隠蔽された筈よ。

直斗は、事故死だって………転んだ際に

運悪く庭にあった大岩に頭をぶつけた、って………」


唸る様に、息苦しそうに告げるジェシカ。

直斗の事が何故、今になって明るみになったのだ?


芽衣は母親の様子を見守りつつ、

テレビに映るニュース報道の内容を見詰めた。

そしてアナウンサーが発した言葉に、拍子抜けして固まった。


『今回の事件の発覚したきっかけは、

北條厳造容疑者による自白から発覚した、という事です』


(あの人が、自白した?)


芽衣には疑問符が浮かんだ。

自分自身は身を隠されていたけれど、

離れた部屋からでも十分、その人物像は理解していた。


自分勝手で、亭主関白。ヒステリックで感情的。

自分本意な人間で、自身に逆らう者には容赦なく制裁を与える。

風花が何度も罵声を浴び張り手に遭い、頬を赤く腫らした事か。

ジェシカが何度、止めに入りやめてくれ、と懇願していたか。


でも北條家の横暴な当主は止めなかった。

自分自身の感情のままに暴君となりながら、北條家を

養女として引き取った少女を束縛し操り続けたのだから。


焼き付いていた記憶が、今更になり脳裏に蘇る。


(…………そんな横暴な人が、自白して罪を認める筈はないわ。

だったら何故、直斗の事が明るみになったのかしら)


芽衣は思考を巡らせる中、ある結果に辿り着いた。


(誰かが、いる?)


北條厳造は病床に倒れ、言葉に発声出来ない。

そんな彼は自らの過ちを認める筈がないだろう。

けれど厳造が罪を認める様に促したのは、誰かがいるのではないか。


直斗の殺害を知っているのは、数少ない。

自身とジェシカ、先日、華鈴に伝えたばかり。

だが華鈴は臆病でお祖父様っ子だから、祖父を庇うに違いない。


では、誰だ?


思考を巡らせた中で

7年前に風花の監視人兼教育係の存在を思い出した。

けれど彼が、厳造の過ちを話したところで何のメリットがある?

それに青年は優しかったから、風花を巻き込む事なんてしない。


(………まさか)


芽衣は、目を伏せ泳がせた。

“ある人物”に到達した瞬間に、

自身も微かに指先が震えているのに気付いた。


(風花………?)


風花という人物が浮かんだ瞬間に、芽衣は絶句していた。








北條家の屋敷には、マスコミが殺到している。

我先にとレコーダーを片手に、北條家に近付こうとしている記者達が蜂の大群の様だった。

しかしそんな大群衆を裂く様に、容疑者が乗った車がクラクションを鳴らしながら現れた。


北條厳造は、数年前に大病から寝たきりになり

車椅子に乗って運ばれている様子が映されている。

その画面に映された老人の表情は覇気がなく、疲れ切った様子で、下を向いていた。


これが罪を隠蔽した罪人の末路、というべきか。



(………風花は、無事だろうか)


不意に脳裏に浮かんだのは、あの薄幸な彼女。

表向きの孫娘である彼女にも被害は及んでいる筈だ。

厳造が逮捕された事により、また北條家の縛りに巻き込まれていないか。


北條家から離縁された身だけれども、

不意に彼女の身元が心配になった。




携帯端末から連絡があったのは、警察からだった。

北條華鈴、なんて呼ばれた事は初めてかも知れない。


_____貴女のお祖父様、北條厳造氏が逮捕されました。



そう告げられた瞬間に、華鈴は絶句した。

芽衣から(あらかじ)め聞いていた“あの事”かも知れないと

胸騒ぎを抱えながら家を帰ると、父親が慌てていた。

華鈴が改めて、祖父が犯した過ちを知ったのは

報道番組を見てからだ。


翌日。

北條家を訪れようとしたが、既に何十人もの記者が居て

北條家から車が出るところだった。


車内の窓から見えた祖父の(やつ)れた表情(かお)

あの威厳ある当主だった祖父の面影はなく、今や殺人者として世間から非難を浴びている。


「お祖、父様………」


そう言って車に駆け寄ろうとしたが、

マスコミの波に押され、弾き飛ばされてしまった。

転んだ衝撃と痛みを押さえながらも、遠退いていく車を見詰める事しか華鈴には出来なかった。




【追記】

華鈴の父親は、厳造の息子です。

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