2ー9・お嬢様のコネクション
ある時期から、社員の態度が変わっていくのを
圭介は薄々気付き感じ始めていた。
上司達は、呆れた様な冷めた顔。
部下達は、何処かで面倒臭そうな、
新人社員ならば時に生意気に食って掛かる態度。
(何か、悪い事をしたのだろうか)
そう考えてみるが
基本圭介は仕事一筋で人当たりは良かったので
上司や部下とそつなく付き合っていたつもりだった。
けれど皆、青年の事を軽蔑した目で見る。
そんな冷たい視線に圭介は気付いてはいたが、
急な態度の変化に見抜けぬ訳もない。
けれど
『北條風花のコネ』はもう慣れている。
________北條家。
北條家の跡継ぎの自室は
棚にはファイルやノートが、テーブルには
タブレット端末やノートパソコンが綺麗に整理整頓されている。
そんな中、風花はタブレット端末の電源を入れ
北條葬儀社のとあるファイルを開けた。
北條葬儀社のネット掲示板がある。
北條家葬儀社の評判は如何なるものかと
確認の為の口コミを、風花はタブレット端末で見詰めていた。
北條家の代理当主であり、司令塔でもある人間とって
葬儀社のエゴサーチや内情を知る事は大切な仕事である。
口コミは何もないままか、評判はどうか等を
ノートに認めていく。
タブレット端末を眺めながら、スクロールしていたが
ある書き込みが目に映り、静かに眉を潜める。
何故ならば、見逃せない書き込みがあったからだ。
“葬儀社で熱心に働く
長野圭介は、実は7年前は
北條家当主の孫娘の寄生虫としていました。
彼女に近付いて仕事を、金ズルにしてた。
彼女のお陰で推薦で北條葬儀社に入れた。
貰った努力もしないヒモの男。
そんな男にまんまと騙された、北條家の馬鹿跡継ぎさん”。
“長野 圭介”。
風花にとっては無視の出来ないワード。
真面目一筋縄に働く青年が、
口コミにこんな事を書かれているとは。
それにこの中傷の口コミには風花も巻き込まれている。
推薦状の事以外は、全て嘘だ。
圭介は風花の寄生虫ではなかった。
寧ろ、自分の行動を止められ少女だった自分に
クライシスホームに連れた後に振り回されていたのに。
(こんな言われよう、こんな事実は存在しないのに)
青年を振り回しただけだった。
薄幸な青年を北條家の案件で振り回しただけでしかない。
北條葬儀社に推薦状を出したのは、
失業者と成らぬ様にせめてでものお詫びであった。
お昼頃、上司に圭介は呼ばれていた。
其処で初めて知った口コミに驚く。
「これは、どういう事かね」
今にも怒り出してしまいそうだ。
眉間に皺を寄せ険しい眼差しで、見詰める上司に
口コミに驚いている暇等無いのだと思い直し姿勢を改めた。
場の雰囲気は重たかった。
今にも逆鱗に触れてしまいそうな沈黙。
そんな中、見せられた中傷の口コミを前に、圭介は固まっている。
(だからだったのか)
出社した時から、周りの目や態度が違っていたのは。
古くから居るお局上司達は知っている。
青年が北條風花のボディーガードをしていた末に
彼女の推薦から、北條葬儀社に入った事を。
それは誰もが知っている事だ。
圭介自身も“北條風花”のコネクションで、
入社出来ている事は重々、承知の上だ。
鋭い、まるで貫かれそうな眼差しに圭介も息を飲む。
そして一呼吸を置いた後に口を開いた。
「口コミの件ですが
確かに僕は北條風花様の、推薦状で僕は入社いたしました。
北條様には感謝しております。
ですが、僕は当時大学2回生でした。
とあるご縁で北條風花様に出会いまして、
ボディーガードとして働かせて頂く事になりました。
勉学と北條風花様のボディーガードとして、生きていました。
ただ
この中傷を元に北條葬儀社にマイナスなイメージを
与えてしまった事は確かな事です。
申し訳ございません」
深く、そう圭介は頭を下げた。
真っ直ぐなお辞儀に、言い訳の一つもなく
誠実な態度に上司は圧巻された。
今時の若者とは思えぬ態度。
こんな青年は今時、あまりいないだろう。
古くからいるお局上司は、青年の凛とした態度に驚く。
「会社のマイナスイメージに繋がってしまって事でしょう。
解雇されても当然だと思っております」
青年は、凛とした声でそう告げた。