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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
第2章・7年の時を経て動き出した歯車
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2ー8・傷を負わせるのならば

久しぶりに圭介のお話です。

言葉の表現に、不快に思われる方も居られると

思います。申し訳ありません。




「お前は、何処の馬の骨かも知らぬ人間だ。

娘が産んだ子供だから大目に見てやるが、

見知らぬ男の子供等、長野家の人間としては認めない!!」


いつか、祖父から言われた言葉。

『老後の穀潰し』と浴びせられた圭介は

幼い頃から自分自身が生まれた事は、

望まれたものではなかったのだと気付いていた。



圭介は、自分を産んで消えた母親の事も

元から誰なのか知らない父親の事も、一切知らない。

消えた生みの母親の事を聞く事は禁忌だったので

母親の事は一切、知らない。


祖父母の笑った顔を見た事がない。

常に顔色を伺い、身を竦め佇ませる様に生きてきた。

例えどんな冷遇を受けようとも、当然の事だと思ってきた。



『………私達の老後を潰してまで

どの男の子供かも知らない人間を育てているなんて……』


祖母は毎日、何処かでそう嘆いていた。


それはそうだろう。

娘の血を受け継いでいても娘は赤子を産んだ後に姿を消した。

祖父母にとっては圭介は“孫“ではなく“見知らぬ男の子供“。

そんな子供を何故、自分達の元に娘は捨てて行ったのだろう、と。


圭介が高校を卒業した時、

祖父母から、ある言葉を投げ掛けられた。




『何処の馬の骨かも知らぬ、お前は一生孤独に生きろ。

それが、わしらの老後を潰した罰の償いだと思え。

お前には幸せになる権利等(など)、何処にもないんだ』、~


『結婚なんて、恋人も子供も作らないて頂戴ね。

もしそうなったら、また私達に苦労をかけるでしょう。


また貴方は、私達の老後を潰す気?

それなら一生、独り身で生きて行って頂戴』


幼い頃から粗末に扱われ続けた青年に

告げられた祖父母の最期の言葉はあまりにも非情だった。


けれど祖父母は、

被害者であると薄々気付いていた圭介は

その祖父母の暴言とも言える、言葉を受け入れた。


好きな人も、結婚も、己の子を設ける事も許されない。

けれど愛情とは無縁に劣悪な環境下で育った圭介に

とっては生きる気力等は、その時点で奪われ

絶望の縁にいたので圭介すらそんな欲はなかった。


愛憎は、辛いもの。

滑稽で、残酷な冷たい感情。

愛憎程に冷たいものは無いのだと、青年は痛い程に知っている。


(誰も好きにはならない。

誰にも興味を示さず、独り身で生きていく)


その感情は、大人になった今も微塵も変わらない。

誰かに惹かれた事も、欲が芽生えた事も一度もない。

ただ働いて、遠くに暮らす祖母に自分の養育費だったお金を仕送りするだけ。


誰かを好きになる事も、愛する事も自分は無縁だろう。


(これで良いんだ。これが償いなんだ)



ただ冷たい孤独と隣り合わせに生きていけば良い。

そうすれば何も起こりはしない。


愛憎を知らない自分自身が誰かを愛せる自信もない。

寧ろ、無自覚の内に傷付けてしまう。

7年前もそうだ。傷心の少女の傷口に塩を塗り、傷を増やしただけだったのだから。




今だってそうだ。華鈴を傷付けてしまった。


7年間も思い続けてくれた彼女を

棄てる様な返事を返してしまったのだから。

北條家の、本当の孫娘を傷付けてしまった罪は重い。



(俺は、人を傷付ける事しか出来ない人間だ)



華鈴を抱き締め返す事も出来なかった

手を中に浮かせながらも、生気の顔色の失せた

圭介は俯いて項垂れ、暫くはその場に佇んでいた。





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