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クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞
第2章・7年の時を経て動き出した歯車
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2ー7・執着の意味


華鈴は感情のままに、その場を逃げ出した。



初夏の淡い風が頬を撫でる。

圭介のマンションから逃げ出した後に辿り着いた公園。

公園のベンチで座り込むと、華鈴は潤んだ瞳で項垂れた。



圭介に尽くしてきたのだから

告白を受け入れて貰えるのだとてっきり思っていた。

風花が去った後に、ずっと青年の傍に居たのは華鈴なのだから。



(……………どうして)







『風花ならば、厳造様の意志を継いでくれるわね』

『あの秀才で、全て整ったお人形の様な可愛い子を

授けたなんて。

風花様は、完全に髪に味方された方よね』



幼い頃から風花は、厳造から跡継ぎとして一目置かれ



北條家の使いの者・使用人達からは

“神が授けた秀才の少女”として崇められてきた。

一時期は北條家を継ぐ者がいないと、危うく不安に思われていた事も『北條 風花』が現れた事で、

北條家が救われたと詠われた。



風花には、厳造の孫娘という立場も

北條家から羨みや褒め称えた言葉も惜しみ無く与えられ

期待を受ける。



(本当のお祖父様の孫は、あたしなのに)


その褒め称えた言葉も、

受けられる期待も自分に与えられるモノなのに

周りは見知らぬ孤児(みなしご)の少女に言葉を送っている。


厳造の愛情を与えられたとしても

自分は北條家の孫娘であり、跡継ぎとしては認められはしない。

『西郷華鈴』として一生分家の娘と生きなければなければならないのだ。


『北條華鈴』として生きたくとも

どんなに望んだとしても手には入らなかった。


風花が褒め称え、期待をされる度に

華鈴の中で憎しみが、羨みが炎の様に燃え上がり

風花を見る度に歪んだ感情が膨らみ、怒りとして執着に変わる。


けれど褒め称えられても、期待を受けても

風花は喜ぶ節は浮かない表情(かお)をするばかり。

それが華鈴の怒りや憎しみを増長させるばかりで火に油を注ぐだけであった。


風花が羨ましい。憎らしい。

風花の与えられたもの全てが、奪ってでも欲しい。

否。自分の立場や与えられるものを横取りし奪った

あの女に、与えられたものを奪ってやる。


それから華鈴は

風花に与えられた物は取り

巧みな話術で風花は悪人だと吹き込み、人を奪う。


(本当はあたしに与えるものなのだから

これは、横取りなんかじゃない)


華鈴は、そう自分自身に言い聞かせて

風花のものを横取りしては自分のモノにしていった。

____けれど、憎らしい風花のモノを奪ったというのに、

何故か華鈴の心は満たされなかった。


それは幾度も横取りし、奪ったとしても。


その度に襲われたのは、虚無感だけ。




だから

圭介が風花の手から離れた瞬間に、何が何でも

圭介の心を必ず自分のモノにし、風花から奪い

後悔させてやると誓ったのに。


(______だけど、出来なかった)


圭介は、風花の事も自分の事も何とも思ってはいなかった。

ならばこの7年間、必死で足掻いて圭介を物にし

風花に後悔させてやろうと思っていたのは何だったのか。




まただ。

何とも言えない虚無感が、華鈴に襲う。


風花のモノを奪って来たのは数知れず。

けれど必ず虚無感に襲われ、圭介すら物に出来なかった。


(“風花のモノ”だったから欲しかったのか。

単にあたしに与えられる権利だから、当たり前だと

欲していたのか)


それは解らない。

けれど、この度の長野圭介に対する感情は本気だった。

何しろ風花のモノ知れば“奪ってやる”と思っていたが

その代わりに彼に抱いていた恋愛感情は本物だ。


涙が溢れる。

全て無駄だった。

圭介は何とも思っていなかった。


自分の立場を奪った風花が憎らしい。

7年間も傍に居たのに、振り向いてくれなかった圭介が憎い。

沸き上がるのは、憎悪。





(長野圭介、あたしを弄んで捨てるなんて許さない)


風花が去り、長らく圭介に執着してきた。

いつか彼の心を手に入れてみせると、7年間

ずっと傍に居たというのに、自分の心を台無しにして

憎しみすら募る。


(ただで生きられない様にしてやる……。

このお祖父様の孫娘であるあたしを裏切った罰よ………)




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