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23-2 発砲の仕掛け、ゾフィーの決断、そしてリタリットとの対面

 そろそろだ、とリタリットは放送用端末のモードを切り替え、幾つかの数字を押す。数回のコールの後に、相手の声が返ってくる。


『俺だ。リタ?』

「あらら。今アンタ何処?」


 彼は相手の名前も問わずに訊ねた。その声がヘッドのものであることは、問わなくても判る。


『このスタジアムの周囲だ。お前こそ今何処だ?』

「観客席よぉ。オレちゃんと真っ当に待ってるんだからねえ」


 くく、と向こう側で笑う声がする。


「それで、どうなのよ」


 具体的なことは一つも言わず、リタリットは向こう側に問いかける。


『まあまあだな。とりあえず、今このそばに、首府警備隊のアンハルト隊長が居たりするが』

「ふうん。じゃあまずまず、なのね。…判った」


 そう言うと、彼はすっとその場から立ち上がり、横の階段を上り始める。通路へ向かうその階段は、割合に急である。その急な階段で、一度ふっと空を見上げる。


「…いい天気だね」


 回線の向こうの盟友は、何だそりゃ、と声を返してくる。


「や、ホント。新年そうそう、いい天気で良かったね、と思ったのよ。空が綺麗でさ」

『お前なあ』

「…それで、オレは、何をしたらいいのかなあ?」


 一言二言、リタリットは黙って向こう側の指示を聞く。そして判った、と短く答える。

 回線を切る。そして再びくるりと身体を、斜め前方の壊れた演壇に向ける。壊れた演壇の中では、現在の状況をどう処置するのか、迷っている。

 迷ってたら、結局こんな時間になってしまった。


「それじゃ、多くの人々を動かす資格はナイのよね」


 彼はつぶやく。何はともあれ、総統ヘラも、ゲオルギイ首相も、その力はあったのだ。


「すいませんちょっとトイレ~」


 通路をふさぐ警備員に、おどけた調子でリタリットは手を振る。しょうがないな、とつぶやきながら、再入場には半券を見せろよ、と警備員は付け足す。

 わっかりました、と明るく答えながら、リタリットはポケットの中のその半券は握りつぶす。戻る気はさらさら無かった。

 屋内に一度入ったところに通路がある。

 さて、とリタリットはそのまま所々に居る警備員やスタッフの姿を横に見ながら、トイレの方へ向かう。予想通り混んでいる。明け方の寒さが、観客に尿意をもたらしたのだろう。

 彼はそれをちら、と見ると、そのまますたすたと奥へと歩いて行く。トイレに並ぶ観客は、その当然の様な足取りに、気を止めることはない。自然が呼んでいる時に、そんなこと気に留めるゆとりはないだろう。

 やがてその人の列が視界から消える。リタリットは廊下を駈けだす。

 頭の中には、このスタジアムのおおよその作りが入っている。

 建設相スペールンの独自のデザインである部分は判らない。だが建築には、それでもおおよその型というものは存在する。全体の形と、用途。それがはっきりしている場合、おのずと、その位置関係は決まってくる。

 そして彼自身、観客席から、ある程度の設備の位置を把握していた。

 人の歩いてくる気配がする。慌てて速度を落とす。もともと足音はさせずに走っていたのだが、あえてゆっくりと足音を立てる。腕章をつけた、あれは放送のスタッフだろう、とリタリットは予想をつける。若い男。周囲には誰もいない。

 すれ違い様、彼は、その男のみぞおちに拳を一発入れた。う、とうめくとその若いスタッフはその場に崩れ落ちる。おっと、とそのままその身体をずるずると引きずると、展望窓のある喫煙所のソファに座らせる。そしてその腕から、腕章だけを抜く。

 そしてまた足を速める。すると今度は二名ほどのスタッフが、扉相手に格闘している姿があった。


「どうしたんですか?」


 人懐こい口調でリタリットは問いかける。見ない顔だな、という問いに、アルバイトなんですよ、といけしゃあしゃあと答える。


「…ち、何て扉だ!」

「どうしたんですか?」

「何か、あの爆撃が、ここの部屋らしいから、安全のこともあるし、もしかして犯人が立てこもっているかもしれんから、とっとと開けろ、っていう、下の閣僚さん達からの要請なんだよ! 何だいお前、聞いてないのか?」

「あ、すいません、オレ会場整理だったんで… ちょっと見せてくれます?」


 彼はさりげなく、ハンマーやペンチを持ち出すスタッフを押しのける。そしてその古典的な鍵穴をのぞき込むと、ああなるほど、とうなづく。


「何がなるほど、だよ? お前開けられるのか?」

「ちょっとそこのマイナスドライバーの細いヤツ貸して下さいな」


 しゃらっと言ってのける。その言葉の調子は軽いものだったのに、スタッフは手がふら、とその通りに動くのを感じる。耳そうじをする様な手つきで鍵穴にドライバーを突っ込むと、彼は幾度かその中をかき回す。しばらくそんなことをしていたと思うと、やがてふ、と息を軽く吹き込む。


「開けていいんですよね」

「は?」


 金属製のノブをひねる。そして開けるが早いが、その中へと彼は飛び込む。飛び込み――― その場に伏せる。

 しかし、何ごとも起こらない。リタリットはゆっくりと身体を起こし、そのまま、光の差し込む前方へと歩いて行く。

 おい大丈夫か、と背後の声が聞こえる。


「大丈夫ですよ! ちょっと来て下さい」


 丁寧をつくろっていたが、その口調には有無を言わせぬ響きがある。リタリットはそのまま窓のそばまで近づいて行く。 

 そこは、放送機材の倉庫だった。

 そういえば、と彼は思う。この両サイドに、カメラが設置されていたはずだった。巨大なモニターがこの会場を一周する際に、一瞬だけ、そのカメラの存在を映した。

 その両側の部屋の機材を運搬する時の箱や、予備のケーブル、予備のレンズ、そんなものが所狭しと置かれている。そこは確実に倉庫でしかないのだ。

 しかし、その中に、一つ、確実にこれは放送の機材ではないと判るものがある。


「…これ、何ですか?」


 リタリットはわざと大声を張り上げる。無論それが何であるのかは、一目見れば、判る。彼らよりは、自分の方がそれに対して馴染み深いのだ。ただ、そこには奇妙な機械が取り付けられていたけれど。


「…何って…」

「これ、まさか…」


 スタッフは顔を見合わせる。


「オレ、皆さんに知らせて来る!」

「皆さん、ってお前場所知ってるのかよ!」

「あ、何処ですか?」

「そのまままっすぐ走ってけ! ON AIRのランプは消えてるが、ノックはしろよ!」

「そうそう、レベカ女史、そういうの嫌いだからなー」


 了解、と彼は言い放つと、スタッフの言った通りに走り出す。

 あの倉庫にあったのは、対戦車砲だった。小型だが、射程距離がずいぶんと長いものだった。位置が固定され、しかもそこには、遠距離からのリモートコントロール装置が取り付けられていた。

 リタリットには判った。ちら、と見ただけで判る様なものだった。


 リモートコントロール。一体誰が何処から。


 彼は走りながら考える。少なくとも内部の者だろう、と考えるのは容易い。この会場の作りをよく判っている者。この会場の用途をよく知っている者。そして総統ヘラと宣伝相テルミンを上手く狙うことができる者。

 そんな者が居るだろうか、と彼は思う。

 予想がつかない。自分達にしたところで、反政府組織だからこそ、あの総統ヘラを狙うことはあるにせよ、この様な手口でやる程憎悪の感情がある訳ではない。大体において、こんな目立つ方法を取ること自体、何か間違っていると思う。


 …見せしめ? 


 ふとそんな言葉がリタリットの中に浮かぶ。しかし、だとしたら、何の見せしめだというのだろう。それも違う。意味が無い。

 内部の者から、狙われる理由は、もっと無い。


 権力闘争? 


 それも考えにくい。何故なら、この「総統」は、そもそもが権力の大きさに耐えかねた閣僚達によって押し付けられた役なのだ。今更権力が欲しいから、と言ったところで、そんな奴等に何ができるだろう。

 ではどうだろう。一番そうでなさそうな者は。

 雑学の知識ばかりが多い相棒は、以前こんなことを言っていた。一番そうでなさそうな奴が犯人だ、ってのがミステリの定石だと。

 タイミングの良さ。あまりにも正確に、あの対戦車砲は、その瞬間を狙っていた。

 式次第は、状況によって多少のずれがあるのが普通だ。としたら、タイマーでコントロールしている訳ではない。かなり近くで、この式次第を見ていた者だろう。

 だとしたら? リタリットは立ち止まる。

 まさか、とふと頭の中にひらめくものがあった。

 だがまさか、だった。彼は頭を振る。そんなはずは無い。

 違う違う、とつぶやきながら、再びリタリットは足を速める。

 やがて、視界に赤いランプが入ってくる。消えてはいるが、ON AIRの文字はその中に健在だった。ドアノブに手を掛けようとして、先程のスタッフの言葉を思い出す。そして、軽い音を立ててノックをする。


「はい?」


 女性の声。彼はさっと扉を開ける。

 既に疲れ果てた、スタッフの半分が仮眠状態だった。

 あと半分も、一応機材のチェックをしていたり、レシーバーを当てて、通信を待っているようだが、それでもあまり意識がはっきりしていないように、リタリットには見える。


「レベカさん!」


 そう確かそんな名前だ、と言った。彼はあえて大声を出す。起きていたスタッフは、ふらふらと顔を上げる。こんな奴いたかなあ、という顔をしながら、しかし居たかもな、という様にすぐに思考停止しているのが丸判りである。

 しかし狙いはそんなスタッフではない。


「…何なの?」


 窓の外を見ながら、女性スタッフが振り向きもせずに返事をする。


「大変なんです! やっとあの扉が開いたんですが」


 とびら? とゆっくりとつぶやきながら、ゾフィーはその声の主の方を振り向く。何か何処かで聞いた様な声が。

 振り向き――― そして彼女は、大きく目を開ける。


「あなた…」


 彼女はよろける。そしてその拍子にばん、とコンソールに両手をつく。

 その音に、カウチの半分を占領して仮眠を取りつつあったリルが、弾かれた様に身体を起こす。


「…あんた… 何で、ここに居るんです… リタリットさん!」

「何でって」


 くく、とリタリットは笑う。

 ポケットから放送用端末を出すと、再び幾つかの数字を押す。一言二言誰かと会話をすると、腕を伸ばし、その端末を彼女の前に差し出した。


「…何… よ」

「レベカさん、だっけ?」

「そう… よ」


 どうしてこんなことを聞くのだろう、と彼女は寝不足の頭で考える。記憶の中の、あの男の姿が、そのままに、彼女の前に居るというのに。

 こんな再会を、ゾフィーは予測していなかった。それが彼女を混乱させる。やはりこの男は、記憶を無くしているのだろうか。


「あんたがここの責任者なんだね?」

「そうよ。一体何だって言うの」

「ちょっとアンタと話したいヒトが居るんだ。話してやってくんない?」

「話…?」


 何ごとが起きたか、とさすがに眠気に負けそうになっていたスタッフも、何か事態が動き出したということに気付きだす。

 一体この男は誰だ、とスタッフの一人はリルを突っつく。俺もよくは知らない、とリルは軽く返す。

 そう、知っていると言えば、ずいぶんと良く色々のことを知っていると思う。だが、この男が記憶を無くしている以上、そんなことは、現在のこの目の前の男に関する説明にはならない。

 でもこれだけは、言えた。


「…海賊放送の、DJすよ」


 その言葉の効果はてきめんだった。ええっ、と声が上がる。しかしリルはその周囲を手と、口に伸ばした人差し指で制する。


「真面目な話」

「真面目な」


 ゾフィーはリタリットの手から端末を受け取る。それが放送用のものであることは、彼女にもすぐに判る。しかしこの場では通話モードになっている。


「…はい替わりました」

『中央放送局のスタッフの代表とは、君か?』


 耳に当てた受話器からは、強い口調が返ってくる。こういう口調にゾフィーは記憶がある。軍人だ。


「…確かにスタッフです。私、ゾフィー・レベカですが。どなた様でしょうか?」

『君が政府公報で有名な、レベカ監督か。私は首府警備隊のアンハルト少将だ。現在の状況を、話してくれないか』

「え?」


 彼女は事態が急には把握できないで、当の端末を渡した男を見る。


「本物だよ。疑う?」


 そう言ってから、リタリットは窓際に寄ると、そのまま背をもたれかけさせる。


「通路から外向きの窓から、見えなかった? 現在この周囲に、首府警備隊が取り囲んでいる。彼らは連絡一つで、すぐにこの中に入る準備はできている。それを聞いていない? 要請は、あそこで」


 彼は壊れた演壇を指す。


「手をこまねいている、あの連中が、出している。一体何をしているのやら。それとも、何か企んでるのかな?」


 その口調は、確かに周囲のスタッフも良く知っている、あの海賊放送のものだった。事態が何か、思っていた方向とは変わってきているのを誰もが感じていた。起きているスタッフは、眠っていたスタッフを揺り動かす。眠っている場合じゃない、と。


「何だったら、そこのひと、カメラ持ってって、外の警備隊映して、ここでズームインさせてみてよ。今端末で、お話しているハズだよ?」


 行って、とゾフィーはスタッフの一人をうながす。肩にズーム距離の長いカメラをかついで、すぐに一人が出て行く。

 やがてモニターの一つが、それまで静止画像の様だったスタジアムの観客席から、窓から下を見る光景に変わる。確かに、その中には、首府警備隊の姿が映し出される。


「確かに… 失礼いたしました」


 ゾフィーはその中で、隊長らしい軍人が、端末を手にしているを認める。そして自分の言葉にちょうど反応しているらしいことも。


「現在の状況ですか。ずっと、変わらないです。何の指示も出て来ないので、私達も放送が出来ない状態にあります」

『では、放送を始めてくれ』


 え、とゾフィーは思わず問い返す。回線の向こう側のアンハルト少将は、同じ言葉を繰り返す。


「放送を」

『先程、現在我々と一時的に共同戦線を張ることにした集団の構成員の報告によると、スペールン建設相は、総統閣下と宣伝相テルミン氏は生きている、と断言したらしいな』

「は、はい」

『しかし、それは嘘だろう?』

「…」

『報告によると、対戦車砲の直撃を受け、そのまま運ばれていったらしいじゃないか。海賊放送がそう首府中に告げていた。不確実な情報が、現在首府を被い、首府全体が不穏な動きに満ちている。これは決して良いことではない』

「では、どうしろと」

『目の前の事実を、放送すればいい』

「ですがそれでは…」

『何のために我々が居ると思う? そしてこの聴衆に、帰還のための通路を開くのだ。彼らはおそらく殺到するだろう。しかし、いつまでも待たせておくという訳にはいかない』

「はい、その通りだと思います」


 実際、この部屋の中で待機している自分達ですら、ずいぶんと疲労している。屋外で待たされている観客はなおさらだろう。

 リタリットは答える彼女の姿を、黙って眺めている。

 その姿を更にリルは観察していた。

 どうにも印象が違う。違いすぎる。あの時、自分の話したハイランド・ゲオルギイの話に奇妙なまでに反応した、何処か子供っぽい姿と、何かが、異なっている。

 ゾフィーはやがて、端末の回線を切り、それをリタリットに手渡した。

 彼女は一瞬相手の目をのぞき込んだが、その目からは何も読みとれない。そしてくるりと、既に目を覚ましだしていたスタッフの方を向くと、声を張り上げる。


「放送を、再開するわよ!」

「レベカさん!」

「チーフ!」


 閣僚からの命令は来ていない。そのことがスタッフを一瞬不安に陥らせる。


「大丈夫、何とかなるわ。そうよ気付かなくてはいけないのよ。いくら春先だって… 寒すぎたはずよ」


 判りました、とスタッフ達は自分の定位置にと次々についていく。リタリットはその合間をすり抜ける様にして、放送室の外へと出る。

 そしてそのまま、外へと出ようとした時だった。


「リタリットさん」


 リルの声が背後から追いかけてくる。何、と彼は振り向く。


「あれが、レベカさんすよ」

「ふうん、それが?」

「それが、でいいんすか?」


 リタリットは上着のポケットに両手を突っ込むと、目を軽く細め、にやりと笑う。


「それ、どうゆう意味?」

「リタリットさん!」


 リルは声を張り上げる。それを見て、ふらりと彼は首を回す。こわばっていたのか、ぽきぽきと音がする。そして顔をしかめながら冷えに凝った肩を叩くと、苦笑を浮かべる。


「ホントに、アンタ好きなのね、あのおねーさんが」

「な…」

「言ったのは、リル君でしょ。オレもその程度は覚えてるのよ。けどさリル君」

「何すか」

「ソレが、今のオレやアンタや彼女に、何の意味があるっていうの?」


 はっ、とリルは息を呑む。


「ソレが大事なことだったとしても、そんなモノに振り回されて時間をムダにしてねえ? 結局」


 どう答えていいものか、リルにはとっさには浮かばない。


「あんた、まさか記憶…」

「さあね。それより、あのカメラの真ん中の部屋、開いたよ。中にちゃんと対戦車砲がある。下手に触んなよ。暴発するかもしれないからね。おまけにリモートコントロールがしてある。とっとと正規軍呼んで、取ってもらったほうがイイよ」


 じゃあね、とリタリットは手をひらひらと振る。

 リルはその姿を呆然として見送ってしまったが、やがてその言葉の意味を頭の中で把握すると、再び放送室に飛び込む。


「レベカさん! さっきの端末…」

「もう彼に返してしまったわよ」

「対戦車砲が、あの中にまだちゃんとあった、ということなんですよ! リモートコントロールが効いてるってことなんですよ! 暴発でもしたら…」


 そうリルが言いかけた時には、既に放送が始まっていた。

 モニターが復活する。音声が復活する。市民の皆さん、長らくお待たせしました、というアナウンスが入る。その途端、急に閣僚の端末からのコール音が響く。

 構ってられないわよ、と睡眠不足でやや頭の中がハイになったゾフィーが一度上げた端末の受話器をわざと落とす。入り口出口の扉が解放される様が見える。あそこを映して、と彼女は指示する。カメラマンがカメラをかついで、外へ飛び出していく。奇妙に朝の光の中、スタッフ達の気持ちは高揚していた。

 やがて開けられた扉から、連絡を効いた首府警備隊が入ってくるだろう。その時にあの部屋へ誘導すればいい、とゾフィーは判断する。ただしその頭はとてもハイになっていたのだが。


   *


 人混みが、その周囲にできる。軍服が、人員整理をしながら次第に中へと入って行く。

 そのすき間を縫う様にして急ぎ足でこちらへ向かってくる見慣れた金髪を、ヘッドとビッグアイズは認めた。


「リタ!」

「ヘッド! ビッグアイズ!」


 腕を大きく上げて、振り回す。人の間をかき分けて、リタリットは二人の元へ走り寄り、大きく手を広げる。飛びつく。


「久しぶり! 生きてた!?」

「ちゃんと生きてるさ、ほれこれだ!」

「上手く行ったようだな!」

「お前こそ! 何てえ声だったんだ!」


 緊張と、冷えと、安堵と、一気に押し寄せてくる、何か訳の判らない感情が、リタリットの背中を奇妙に押している。何かひどく、笑いが止まらない。そして、高揚感も。


「無事だったな、リタリット!」

「ジオ! あんたも居たのか?」


 そしてそんな彼らの姿を、いつの間にかやってきていた、TV局のカメラが映しだしている。カメラマンは、事実をありのままに映すことがやっとできた、とばかりに、あちこちにそのレンズを向ける。


「どうすんだ、これから」

「少将は、スペールン建設相を逮捕すると言っていた」


 ヘッドは言う。その声は決して小さいものではない。しかしこの人の波の中、ざわめきの中、その声はつぶやきくらいにしか聞こえない。なるほど、とリタリットはそれを聞いてにやり、と笑った。


「あんな場所に、リモートコントロールで仕掛けられる奴なんか、そうたくさんはいないからな」

「可能性は高いよな」


 ビッグアイズもうなづく。


「本当は誰か、なんてのはさておいてな」


 くく、とリタリットは笑った。


 既に陽の光は、高くなっていた。

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