第35話:少数派の常識が浸透すれば多数派になるよね的な屁理屈理論。
おはようございます。火曜日です。
今日は、解熱鎮痛薬と湿布、下痢止めをメインで作る予定。余裕があったら、香料も作りたいと思います。
作業性を上げるためといっちゃなんだけど、俺は、共同作業員の御三方に地球の金属材料学と基礎化学、有機合成学の知識を身に付けてもらうことにした。一応、異世界知識を覚えたことによる外部からの圧力や危害などは一通り伝えたのだが。そのうえで教えを乞われたので、自分が知る範囲だが生活に役立つ化学(サイエンス的な)を教えた。
教えたうちの1つ目は、不純物が入った混合液を蒸留(分留)する操作。蒸した木材からの留出液をメタノールやフェノールなど様々な留分に分けたり、化学には欠かせない手法だ。
次に、新アイテムの分液フラスコで、目的の物質を有機層と水層とに分けて、溶かしこんでから抽出する手法。
さらに、硫酸を触媒にしてカルボン酸とアルコールからエステルを合成したり、カルボン酸とアミノ基からアミドを合成したり。他にはフェノール類から酸化反応・還元反応に付加反応を駆使して芳香族化合物の誘導体を作ったり。
その結果…。
衝撃的なレベルで彼らのスキルがドバっと変化した。所持スキルのあまりの変化で身体がついていけなかったらしく、3人とも知恵熱(笑)やら頭痛やらでノックダウン。ガロ宅実験室の隅の床に崩折れてしまった。3人とも、すまん。やり過ぎたかもしれない。
みんなが回復するまで少し休憩して、原料から作っていくことにすることにした。
まずは、アセトアミノフェンから。
アセトアミノフェンを作るのに重要なのが、金属ナトリウム。
ストックが無くなっていたので、最初に、溶融塩電解の方法で、金属ナトリウムを作る。
タライの形をした薄手の陶製の器に、海水から作った粗塩をたっぷり入れる。陽極として木炭から作った炭素棒を塩に埋め込んで銅線をつなぎ、その上に陶製の筒を挿し込んで隔壁となるように電極に被せる。同様に、陰極には軟鉄の棒を使い銅線をつなぎ、塩に埋めたあと上から陶製の筒を塩に埋没させるように被せる。
これで、融解塩電解用の装置が出来上がり。
因みに反応は、
炭素電極(+):2Cl- → 塩素(gas) + 2e-
鉄電極(-):2Na+ + 2e- → ナトリウム(solid)
…のようになる。
塩素も金属ナトリウムも溶融塩より比重が軽いから、筒の上に浮いて採取できるのだ。
金属ナトリウムは反応性が激しいから、準備しているエーテルの中に保存する。
塩素は、とりあえず魔方陣を彫った魔法瓶に圧縮保存させておく。
本来ナトリウムの融点は801℃だけど、今回使う塩は粗塩だから、凝固点降下の効果で純NaClと比べると少し融点が下がる。
持っている地球時代の参考書によると600℃近くまで下がるらしいけど、実際のところどこで融けはじめるかわからないから、いつも目算でやってるけど…。
どうしよう。教えるなら、600℃あたりから慎重に加温すればいいかな…?
俺はみんなに説明する内容について、装置を組み立てていきながら、そんなふうに考えていた。
「サリアさん。【温度制御・加温】は使えますか?」
「はい。使えます!」
「では、塩が融けて液体になるまで加熱してください」
「わかりました!」
魔力の変換効率は多少悪いようだが、サリアの魔法による塩の加温が始まった。
「ほう。塩の融ける温度というのは…だいぶ高いのでござるなぁ」
「そうですね。添加剤を入れて600℃程度、純粋なものなら800℃程度ですからねぇ」
「成る程。…お? 融けてきましたぞ?」
「あ、ほんとだ。サリアさん、そのまま定温維持でお願いします」
「わかりました!」
サリアさん、頑張って!
次は、電気分解。
通す電圧は6V程度がベスト。
雪白さんは雷魔法と風魔法が得意だと聞いていたので、電流操作を頼んだ。
俺はスタミナを活かして、途中途中でサリアさんと雪白さんの補助に入った。
熱に強いクログは、革グローブを装備し、火鋏を使って、陶製の筒を溶融塩の中から引き抜き、新しいものに交換していく。
クログが金属ナトリウムを拾い上げたところで俺が急冷し、エーテルの瓶に詰めていく。
金属ナトリウムをエーテルの瓶に10本分作ったところで、溶融塩電解の作業を終了にした。
…で、後から気がついたことなんだが…
一番大変なのは、保管場所でした!
金属ナトリウムは、水気と接触すると水素を発生させて誘爆の種になる。水に触れると水素を出しながら火を吹いて燃え、水酸化ナトリウムになる。
空気もアウト。
結果、オレの研究室が化学的に一番危険な部屋と認定されました…。
毒劇物でいえば、薬学研究室とか錬金術研究室も、危ないんだけどね。なんでだろうね!
そんなこんなで金属ナトリウムが出来て。
金属ナトリウムから作った水酸化ナトリウムと硝酸を混ぜて脱水すれば、硝酸ナトリウムの粉末が得られる。
金属ナトリウムに四ホウ酸ナトリウムと二酸化ケイ素を混ぜて水素雰囲気下で加熱すれば、水素化ホウ素ナトリウムが出来る。
炭焼きから得たフェノールに濃硫酸条件下で硝酸ナトリウムを反応させて、4-ニトロフェノールを合成する。4-ニトロフェノールの副産物に2-ニトロフェノールが出来てしまうので、4-ニトロフェノールだけを分離回収する。
分離した4-ニトロフェノールのニトロ基を水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元し、4-アミノフェノールに変換する。
さらに、アミノ基に無水酢酸を反応させてアセチル化すれば、目的の物質であるアセトアミノフェンが出来上がり! …というわけだ。
「はぁ… 化学合成とは、難解なもので御座いますなぁ」
「確かに。しかし森での薬草採取の手間を考えれば、手順を覚えてしまえば製薬の効率は良いともいえそうですね」
「クログさんや雪白さんの言うことは尤もなんです。化学合成って大量生産が利く反面、不純物やら廃液やらの処理が面倒なんですよね。俺も、ものの良し悪しを熟慮すべきだとは思ってます」
「しかし… 某のスキルがエラいことになっている訳で御座いますが…。この度の金属ナトリウムやらアセトアミノフェンなる痛み止めやらの合成で、制約をかけなければ他人にはもはや見せられない状態で御座る」
「あ、わたしもー!」
「………。 …そんなに?」
「「「そんなに、です!(で御座る)(ですね)」」」
…そうか~。
まあ、もういいや!
「知られると面倒なんで、隠しておいてくださいね」
「「「(了解)」」」
俺の性格上、この世界に地球の科学が漏れていくのは仕方ないと断言出来るが、今は秘密!
「でも、漏れていくのは仕方ないと思うよ」
俺の言葉に研究仲間がツッコミを入れたのは、言うまでもない。
皆さん、普及するまで待っててね。
トラブったら兄貴に相談だ!




