第32話:炉の増築と新たなる問題。
短めながら、コツコツと。
それでは第32話をどうぞ。
誤字脱字などありましたら、報告どうぞよろしくお願いします。
炉の基礎となるスペースは一坪くらい。
水平を測りながらきれいに均したあと、木枠で囲いを作ったところに粘土を水で捏ねたものを流していく。
「じゃ、焼成作業を始めますんで。皆さん下がっててくださいねー!」
俺が合図をだすと、はいよーと返事がきて、皆が基礎の近くから離れていった。
【加圧】さらに【加圧】っと。
存在の統合が果たされた俺は、ヘタレ魔法使い?から普通の魔法使いに変化していた。
聞いた話、俺の場合“オレ”が俺の能力に干渉する関係であったがために、魔法の制御へ悪影響が出ていたそうだ。
つまり今は…
全然問題ないというわけで、IDタグのステータスも全般的に、ほぼ最大値まで上昇している。
というわけで。
制御オンチから解放された俺は、遺憾無く魔法を発揮させた。
圧力の魔法を重ね掛けて、ガンガン粘土を締めていく。
水分がじわじわ染み出しているところに、更なる魔法を重ねた。
はい【温度制御・加温】さらに【温度制御・加温】でござい。
当初はブッ飛んでいた時期もありました。赤熱した岩に掛けた水の、水蒸気爆発が楽しくて楽しくて!
しかし今はおとなしめ。自粛してます…西の森以外では。
今回は、とりあえず粘土で造る基礎が壊れないように、分速100℃くらいで加温していく。
1分くらい経ったところで、粘土から染み出した水が蒸発から沸騰の様相に変わっていく。
何分かしてくると輻射熱がじんわり届くようになり、粘土はさらに焼き締まっていく。
「魔法とは、実に便利なものですなあ」
クログさんが、頷きながら唸っている。
「蜥蜴人族の方々は魔法を使わないんですか?」
「そうですなあ。無くはない…といったところで御座いますか。しかしながら…祖父から伝え聞いただけで実際は如何かと。某はこの下町生まれゆえ、子細は知りませぬ」
「そうなんですかぁ」
「その代わり、温度感覚は種族特性ゆえ人族より勝りますな」
「ほほぅ。じゃ、鍛冶は天職ですか」
「然り。トカゲは寒暖に滅法弱く御座いますが、蜥蜴人族は寒暖に左右されませぬ。人族は、トカゲ、
トカゲと某達を何だと思っているのやら。噴飯ものでございますよ、まったく」
「はは…」
内心で“クログさんすみません!”と思いながら、作業は続く。
2000℃くらいになったところで加温を解除し、加圧も解除。あとは自然冷却で作業が再開出来る温度まで放置し、冷めたら煉瓦を積み上げていく工程に入る。
粘土を捏ねたものを焼いた下地に塗り、タイルを貼る要領で粘土に煉瓦を埋めていく。同心円状に、整然と並べていかないと後で歪んで困ることになるんだよね。ここは慎重に、慎重に。
煉瓦を積んでは粘土でキッチリ固め、また積んでは粘土で固め、地道な作業が続いていく。
何層も積み上げて太腿あたりの高さになったら、上面にいったん粘土を盛る。緩やかな傾斜を持たせながら粘土を滑らかに仕上げたあと、【加圧】と【加温】で焼き締めて、炉床を成形していく。
テキストの高炉を参考に、傾斜の最下流には溶銑の出銑口を設けた。開口幅は煉瓦2つ分、開口高は煉瓦4段分。
炉体の厚さは耐熱煉瓦3列分にした。煉瓦を円周に合わせて配置し、2層目は半個分ずらして置き、3層目はさらに半個分ずらす。全部置いたら粘土で固めて、上の段も半個ずらしを繰り返して積む。
5段積んだところで、比重差により溶銑の上に浮き上がる不純物“スラグ”を排出するための出滓口を、幅は煉瓦2つ分、開口高は煉瓦4段分で確保した。
あとは、3mより少し高いくらいのところに原材料である鉄鉱石や木炭、脱硫用の炭酸カルシウムを投入するための投入口を炉口に設けた。
出滓口より少し上には、煉瓦半個分の大きさの吸気口を4ヶ所設ける。うち1ヶ所は、炉頂から出た二酸化硫黄や窒素酸化物、二酸化炭素などの酸性排気ガスを水蒸気とともに水槽にトラップし、再利用可能な一酸化炭素や水素などの還元性の高温ガスを、外気に混ぜて吹き込めるようにした。
積む、塗る、【加圧】【加温】を繰り返し。
太い煙突というかなんというか…
総勢4人で建造したお手製ナンチャッテ高炉の、基礎から炉頂までの本体の高さは約4m。最上部に取り付けた高炉ガス管まで入れて、約5m。
100m超えを誇る現代工業の実物と比較すれば、テキストを参考にして構造だけ真似て建てたこの炉は、お粗末なものかもしれない。
でも…。竈門のような小規模製錬ではなく、一度に圧倒的な量の製錬が出来たらいいのにと思っていたので、ぜひ試したかった。
後悔は無い。
皆も満足しているようだし、良かったと思う。
今日は金曜日。煉瓦作り、だいぶ掛かったよな…。
来週にはぜひ、炉内温度を実用並みに上げて耐久性の試験をしてみよう。
それがパスできたら、実戦で鉄鉱石からの製錬だ。
日暮れまでは少し時間があったが、俺たちは互いに労うと、完成を祝う早い晩飯を食うために、料理屋へ向かった。
「そうだ、ソーマさん。質問です」
「なに? サリア」
「ソーマさんは薬学や錬金術もされるようですが…」
「うん? そうだね」
「実験台の近くに炉があると、引火しないかワタシ、心配なんです…」
「………」
「…忘れてたぁぁぁぁ!」
しまった。明日急ぎで部屋に強制排気機能つけないと!
俺はサリアさん、いやサリア様を拝む勢いで感謝した。
うっかり設計で炉からエーテルが引火とか…
ないわ~。
あり得ないわ~。




