第26話:俺がオレのために出来ること。
俺はオレを消した。過程はどうあれ、オレは俺のために色々なものを遺して消えていって、並列の存在はなくなり俺だけになった。
「よしっ!…っと」
俺はエメラルドのペンダントを首にかけると、部屋を出て研究室に向かった。
これからは少しだけ、真面目に研究しようと決めた。思ったのは、高度な技術の恩恵を比較的受けにくい低所得な人々でもそれなりに手に入れることができる方面の、モノ作り。
汎用性が高く廉価な薬に、作業性の良い農具。考えれば色々出来るはずだ。
優先順位をつけるなら、風邪薬だろうか。
この街は露骨な貧富の差はないようだが、やはり貧民居住区らしきエリアはある。
風邪をこじらせて…とかも、兄貴の話によればあるらしいし。
安い薬と食べ物があれば、風邪による病死なら防げるはず。そして、俺の力は微々たるものだけど、治安が良くなる方向にもっていきたい。せっかく住む街なんだから。
手始めに、薬を作ることにした。
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手元に準備したのは、合成したp-アミノフェノールの粉末と、無水酢酸。それと濃硫酸。
これらの原料は、鍛冶場の排ガスや木材の乾留物を魔法により処理することで得られるから、原価はほぼゼロである。
液体の無水酢酸にp-アミノフェノールの粉末をかき混ぜながら溶かしていき、濃硫酸により脱水縮合させることでアセトアミノフェン、つまり“市販レベルの解熱鎮痛薬”を生成させる。
アセトアミノフェンの結晶化と濾過を行い、乾燥させたものを硝子の小瓶に詰めた。
おなじフェノール由来のサリチル酸から解熱鎮痛剤のアセチルサリチル酸を作っても良かったが、副作用が心配なので子供には使えない。大人でさえ、遊離したサリチル酸による胃腸障害の懸念はあるのだ。
俺は、有機合成は扱えても、所詮、薬のプロである薬剤師でも医師でもない。だから、副作用の少ないもののほうを、精神衛生上選んだというわけだ。
もうひとつ。
サリチル酸をメタノールと混ぜ、濃硫酸で脱水縮合させて結晶化させ濾過し、粉末化させたのが、サリチル酸メチル。こちらは“外用鎮痛薬”つまり、湿布として使う痛み止めだ。
内服用じゃないから副作用の心配が個人的に少ないので、作ってみた。
手元に、
1)制酸剤である炭酸カルシウムの微粉末とともに錠剤のかたちに練り固めた、解熱鎮痛薬の“アセトアミノフェン”
2)植物油を硬化して軟膏に仕立て、冷却作用のあるハーブの精油または温熱作用のある香辛料エキスとまぜた外用鎮痛薬“サリチル酸メチル”
元手のあまり掛かっていない、この2つの薬。
薬草学から発展したこの世界の薬学に対し、異端のものであるこの薬たち。
この2つの薬を持って、俺の思いを伝えるべく、相談役のアルマリオさんのもとを訪ねた。




