第12話:魔方陣の作り方~実践編~
本日2014/9/14の16時10分、第12話をお送りします。
お待たせしましたが、どうぞよろしくお願いします。
さっそく俺は、4B鉛筆を片手に魔方陣の作図に取り掛かった。
初めに、タンスの扉に手持ちの30cm定規を使って基準となる線を引く。
21cmの目盛りにきっちり合わせて、線がずれないように気をつけた。
次に、引いた線の端に紐式コンパスの釘の先端を合わせてから、紐に括り付けた鉛筆の先端と釘の先端との距離を21cmに調節する。こうして、直線の両端から“メの字”の交点ができるように二つの円弧を描き、交点と直線の両端とを直線で結ぶ。
こうやって、一辺が21cmの正三角形を作る。
さらに、正三角形の2つの辺に垂直二等分線を引き、その交点に釘の先端を合わせて、三角形の頂点と釘の先端との距離を半径とする円を描く。
別に垂直二等分線の作図をしなくても、正三角形の辺の中点である辺の端から10.5cmの位置を測って頂点と線を結び垂線を作り、それを2辺でおこなって得られた交点を半径とする方法もある。
基本の円の作図が出来たので、その内側に半径が2.5cm小さい半径8cmの同心円を、紐式コンパスで描く。
そして、三角形の3つの頂点を中心にそれぞれ、半径7.5cmと半径5cmの同心円を描き込んでいく。
最後に不要な線を消しゴムで慎重に消して、これで魔方陣の線の部分が出来上がりとなる。
観音開きの上段、下段、下の引き出しのそれぞれに、同じ作図を施した。
「マルコーさん、出来ましたよ~」
『おっ、じゃあ俺の出番だな!』
マルコーさんに4B鉛筆を渡すと、さっそく俺の描いた魔方陣の骨格に紋様を書き込み始めた。
「マルコーさん、その文字は何ですか?」
『ああ。こいつは精霊文字っていう、古代文字の一種だな』
「へぇ。精霊文字ですか!」
この世界は、4種類の魔法系統に分けられる。
〔火精霊〕・〔水精霊〕・〔風精霊〕・〔土精霊〕の力を借りて行われる四大精霊魔法。
【状態付加】・【状態解除】などの状態変化魔法。
【濃縮】・【計測】などの物理魔法。
【混乱】・【催眠】などの精神魔法。
一番の驚きは、回復魔法が無いことだった。
マルコーさんが言うに、『そんな便利な魔法があったら医者と薬師が潰れる』とのこと。
確かにそうだわ…
魔方陣に使う魔法は、
〖物理障壁〗は土精霊、〖耐火〗は火精霊、〖定温維持〗は“状態付加:温度”の状態変化魔法を使う。
マルコーさんの緻密な作業が続くなか、俺は魔方陣の線を描き終わった後に頼まれた、魔法結晶への魔力の注入をし続けていた。
だいたい20分も充電ならぬ充魔力すればエネルギー状態が安定するらしい。追加の魔力注入は不可で、空になってからしか再注入できないとの話だが。
ようやく、魔方陣に使う、3個×3組=9個の魔法結晶に全て魔力を注入し終わった。
魔法結晶は、透明→濃赤→赤→橙→黄→緑→青→藍→紫→黒、という順にエネルギー貯蓄量が変化する。
俺がエネルギーを注入した結果…
最高の出来→藍銅鉱のような藍青のものが1個
ターコイズブルーのものが2個
オリーブ石のような明るい萌黄色が3個
硫黄結晶のような明るいレモンイエローの結晶が2個
黄水晶のような蜜柑色が1個
…という感じになった。
…マルコーさんには“緑色以上が及第点”と言われて作業を始めたが、まさか6個も失敗するとはさすがに思っていなかった。
…心、折れてイイデスカ?
魔力を使いすぎたせいか倦怠感で机に伏したままぐったりしてると、マルコーさんが俺のもとにやってきた。
『おっ! できたっぽいな。 どれどれ…?』
出来た結晶を、マルコーさんが一つ一つ検分していく。
『うん、濁りもないし発色がクリアに出てっから上出来上出来。初めてにしちゃ、いい線いってるぜ? 素質があんだし気落ちすんじゃねえよ』
肩をポンポンと叩いて労い、『慣れていきゃ最大量は増えンだからさ』と言ってくれた。
質は上々と言われ、少し気分が楽になった。
清濁によって、いわばマンガン電池かアルカリ電池かみたいな出力の違いが出てくるということで、俺の現在の魔力は“短~中時間・大電流型”という感じらしい。マルコーさんは紫紺から黒紫色の結晶をコンスタントに作れるので、“長時間・大電流型”ということになる。
レンガ色のような艶の無い赤褐色のものでも、いわば“短時間・小電流型”といった感じで火付け石や簡易行燈なんかに使えると教えてもらった。
『そんでだ。魔力量が低い黄色いのとオレンジ色のは、定温維持で使えばいいか。あんま魔力の消費が無いからな。メインの物理障壁にいいのを優先して使って、残りを耐火って感じだな』
マルコーさんが、一つ一つ魔法結晶を魔方陣にセットし、ついにオリジナルの防爆保管庫が完成した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『起動開始』
マルコーさんが魔方陣に手のひらを翳して魔法を唱えると、鉛筆で引いた線が光り出した。
『お? すげーいい感じだけど、鉛筆の素材は何だ?』
「黒鉛ですね。ダイヤモンドの同素体で、炭素原子が層状に並んだ導電性の物質です」
『上質な黒炭と同じか?』
「断言できませんが、理屈ではそんな感じです」
俺は、石墨を思い出していた。
非常に軟らかい、繊細な構造。脂肪光沢のあるしっとりとした黒い色味。
材料をうまく調達できればこの世界でも作れそうだ。…炭を用意して、試そうかなー。
『さて…と。一丁上がり!』
『インクより断然、魔力伝導効率がいいわ。ソーマ、作れっか? こーゆー鉛筆』
防爆保管庫の起動が終わったらしく、マルコーさんが話しかけてきた。
「いまちょうど考えてましたけど、多少工夫すれば出来そうですね」
『マジか!?』
マルコーさんと俺は、在庫がなくなる前に、鉛筆づくりに挑戦することを決めた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
500mlペットボトル1本分ほどあったジエチルエーテルを、ビール瓶のような色の徳利形のガラス瓶に移し替え、蓋代わりに袋状にした豚の腸を二重に被せて紐で固く縛る。余分な長さはハサミで切り取って調整した。
それを出来立ての防爆保管庫にしまうと、作業が終わった満足感と疲労とで、2人とも思わずソファーに身を投げ出してしまった。
「終わりましたね…」
『ああ、終わったな…』
2人とも、もはやゾンビ状態である。
『…ソーマ、フリーの日、手伝えっか?』
「そりゃもう勿論ですよ。有機化学、マルコーさん頼みのところが大きいですし。水・金・土曜日はフリーなんで、都合付つけます」
『んじゃぁ、よろしくな…!』
「こちらこそ、よろしくお願いします」
…
………
『「…んぁ~…疲れたぁ…」』
すでに午後6時をまわり、窓の外は残光で仄かな明るさを残すのみである。
俺たち2人は防爆保管庫の完成を祝うささやかなる乾杯をしに、疲れた身体を引きずりつつ飲食街へとくりだすことにした。
明日はジュナさんの薬学講座。
市販薬程度しか知らない俺だけど、大丈夫なんかな?
そんなことを思いつつ、綺麗なキツネ色に揚がった肉を頬張る。
マルコーさんは、お酒で程よく出来上がっていた。
そういや、マルコーさんって貴族だったよな?
騎士さんや、革鎧の狩猟者さん、さらには街のおっちゃんなんかとも楽しそうに飲み食いしてる。ホントにこの人貴族なのだろうか?
民衆の人望が篤いに越したことないよね! っていうか人望が篤いから、この世界ではニッチな化学が研究できるんだろう。必要な物品、街の皆さんに注文することが多いしね。エタノールは酒屋、実験器具はガラス工房とか金属工芸職人って感じで。
食事のあと。
部屋に戻った俺は、汗を流す程度に湯をかぶり、ベッドへとダイブした。
布団の上で寝ているのに気づいたのは、空が白み始めた午前5時過ぎてのことだった。
布団にもぐって二度寝します…おやすみなさい。
読んでいただきありがとうございました!
いかがだったでしょうか?
次は、ファーマシーのほうに話が移ります。
頑張って執筆したいと思います!




