第9話:異世界で地獄を見そうです。
8月ラストの投稿です。
次話は9/3あたりまで…とかいってましたが、キリがいいところまで出来たので8/31の21:00に上げました!
よろしくお願いします。
一通りの挨拶回りがおわったところで、時刻はすでに午後5時を過ぎていた。
約束の時刻を過ぎてしまったので、多分、アンナはもう村に帰ってしまっただろう。
申し訳なかったので、アルマリオさんに郵便物の送り方を教えてもらって、アンナ宛てに手紙を書いた。
『ソーマ君、これで今日やるべきことは全て終わったよ。後は君の荷物を部屋に運ぶことくらいだよね?』
「そうですね…」
俺は、ひしゃげた車の横に鎮座するRVボックスに目をやった。
与えられた部屋は研究棟の北側の1階にあるので、一人でも運ぶのはどうにかできそうだ。
「あれは自分でなんとかしますんで、大丈夫です」
『そうかい? では、今日はこれでお終いにしよう。また明日、何かあったら私の所へ来るといい』
そういうと、アルマリオさんはスタスタと足早に去っていった。
…やっぱり、せわしない人だよなぁ…。
俺はフゥと息を吐くと、荷物が満載のRVボックスをガラガラと押しつつ、部屋に向かった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
寝室スペースにはいつの間にか、俺が日本から持ち込んだ泥水で汚れた布団が、綺麗に洗濯されて乾いた状態で畳まれ、ベッドの上に置かれていた。
俺が挨拶回りしている間に、誰かが洗濯しておいてくれたのだろう。
俺は取りあえず、RVボックスをベッドの頭側に置いた。
ベッドの上に布団を敷いて一息つくと、俺はRVボックスの蓋を開けた。
教科書や参考書の類は、据え付けの棚に。
筆記具は、机の引き出しに。
衣類は、据え付けの衣装タンスに…。
ボックスの中身を、仕分けしながら収納へ次々と収めていく。
ボックスに残ったのは、液晶が割れて使えなくなったスマートフォンや充電コード、ヒューズが切れた二連式シガーソケット、一般用コンセント&USBポート搭載シガーソケット、泥水で汚れてしまった車用アクセサリーといった小物の類だ。
つまり、不要なものばかり。
使えない小物を一つ一つタオルできれいに拭いて、ボックスに常備していた30Lサイズのポリ袋に入れていく。
そして作業を終えるとポリ袋の口を縛り、ベッド下の空きスペースにしまった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
この世界の衣類を買っていなかったので買い物にでもと思ったが、時刻はすでに午後7時をまわってしまっていた。
手持ちの服はあちらが冬だった関係上耐寒がメインなので、こちらの季節で着られるものは、インナー用のTシャツ&ジーンズの組み合わせに限られてくる。枚数も多くはないので、汗をかいたときには非常に困る状態だ。
「明日、服とか色々買ってくるか…」
早急に買い物に行くべきだな、と考えながらメモ帳に必要事項をリストアップしていると、誰かが扉をノックした。
『おーい。オレだ、オレ。入るぞー』
「はいよー」
俺の返事と同時かやや早く室内に入ってきた。
声の主は、虎の人。つまり、俺の兄貴。
兄貴は転生組だから、“元”が付くのかな? その辺、どうなんだろう。
「相変わらず、入るタイミング微妙だよな、兄貴」
『そうか? それは…まあいい。お前、ちょっと時間あるか?』
「ん? あるけど? 兄貴、衛兵の仕事は終わったのか?」
『あ? ああ、あれね。オレって所属は衛兵部隊じゃなくて、実は憲兵部隊なんだわ。ちなみに隊長職な』
え? あれ? そうなの?
「じゃあ、門に立ってたの何で?」
『そりゃお前、転移してきた弟のお迎えを兄がする。問題ないだろ? 部隊間で内部調整したから業務に支障はなかったしな』
どう考えても俺への冷やかしだが、ほんとにマジで平和なんだな、この世界…
俺がORZな気分でいると、兄貴がニヤニヤしながら訊いてきた。
『あっち、あのイベントの日だったのか?』
「正確には、イベント2日前な」
『あのカタログを持ってたってことは、お前、東京まで運転していくつもりだったのか?』
「ん。そうだけど? 運転も慣れてきたし、遠征費用を抑えようと思った訳」
『お前…相変わらず無駄に行動力あるのな』
呆れている兄に、俺は平常運転な返事をする。
~浮いた交通費を本の購入費に充てるのは紳士の嗜みです~
兄貴はしれっと返事した俺に生温かい目を向けると、一言放った。『その思考回路が訳わからん』 と。
兄貴に来訪の理由を訊くと、簡単なことだと言われた。
転移者の場合、持ち物が非常に少ないケースが多い、と。
俺の場合は例外も例外で、バカみたいに転移元の物品を持っているらしい。
それでも、さすがに服は無かろうと、兄貴は体格が変わって着られなくなったシャツやズボンを持ってきてくれたようだった。
「兄貴、こんなにいいもん、本当に貰っちゃっていいわけ?」
『ああ。サイズが合わないし、取っておいてもしょうがないしな』
「さすが兄貴、助かるわ~。…そういえば兄貴って、貴族なんだよなー」
『そうだな。しかし、面倒だから実家にはほとんど帰っていないが…』
あれ? 何やら様子が…
「えー? なんで?」
『騎士団の仕事が忙しいと、つい理由を付けてズルズルと…な』
とたんに兄貴の口が、重くなった。
『いやな? 家族が嫌いってわけじゃないんだが、長男だと他との付き合いで見栄とかしがらみとか色々…な』
「そうかぁ…」
「…もしかして、結婚とか?」
予想で言ってみると、虎のしっぽの動きが変わった。
兄貴、分かりやすいな。
自分が持ってるテンプレの貴族観どおり、長男である兄貴は大量のお見合い話を持ち掛けられ、辟易しているらしい。
兄貴、仕事が好きだしな…っていうか、ワーカホリックだし。
「兄貴も大変なんだなー」
あまり家の話題に触るのも気が引けたので、俺は強引に話を変えた。
「そういえば兄貴、ウォーカー家ってどのくらいのレベル?」
『レベルってお前… 爵位でいうなら、伯爵だが』
すげー。
男爵<子爵<伯爵<侯爵<大公のうち、王族の身内である大公を除くと…実質、上から2番目かよ。しかも長男って…。
それは外野が黙っちゃいないかぁ…。俺も逃げるクチだな。
「そりゃ、俺も逃げるわ~」
『だろ?』
兄貴は味方を得たと安心したらしく、尻尾の挙動が元に戻っていた。
『じゃ。オレ、そろそろ官舎に戻るわ』
「了解ー。じゃ、服、ありがとな!」
『そうそう。 明日朝、アルマリオ氏のところに行ってこいよ。さっそく仕事くれるぞ?』
仕事…
仕事かぁ…。
兄貴はそう言い残すと部屋を出て行った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
翌日。
兄貴の提言どおり、午前9時にアルマリオさんのところへ足を運んだ。
『おぉ、ソーマ君おはよう! 早速だが、君の書物を複製してほしいのだよ!』
「おはようございます、アルマリオ様。書物、日本語でいいんですか?」
『いや、出来れば中央大陸共通語か中央大陸東部語でお願いしたいのだが…。
アルマリオさん、無茶です。無茶があります!
「大丈夫ですが、翻訳出来ない専門用語とかはどうしましょうか?」
『昨日紹介した研究員に訊きながら、うまく進めてくれ!』
はい…頑張ってみます…
不承不承、教科書や参考書の翻訳を引き受けると、大量に持たされた造りの粗い紙と筆を抱えて、部屋に戻った。
100円ショップで買った1ダースのHB鉛筆と、1ダースの4B鉛筆。
5個パック消しゴムが1つ。
24色入りの水性ペン。
そして、24色入りの色鉛筆で製造元が違うものを各1セット。
…なぜわざわざ2セット買うのかって? それは、製造元が違うと色が微妙に違うのさ。同じ24色入りでもね。
というわけで、慣れた使い勝手の黒が27本でどこまで書けるのか? というのが心配だった。
もらった筆、Gペンっぽい形で…親近感が湧くんだけどね。
この日から、俺時々研究員達の、“翻訳地獄”が始まった。
次から、過去の勉強成果と資料のパワーが炸裂します。
総合PVが、8/31中に2000を達成出来そうです。ユニークも700を超えました。
読んでいただきありがとうございました!(^^)/




